不動産経営に欠かせないPLとBS
不動産経営を行う経営者にとって、物件を購入し、入居者から家賃収入を得るだけでは十分ではありません。
収益を正しく把握し、将来の投資判断を行うためには、PL(損益計算書)とBS(貸借対照表)を正しく読み解く力が不可欠です。
「毎月黒字だから安心」と思っていても、実際には資金繰りが厳しいケースや、将来の修繕リスクを見落としていることもあります。
その原因は、多くの経営者がPLとBSを十分に活用できていないことにあります。
経営者が直面する課題
多くの中小企業経営者や個人オーナーは、会計帳簿や決算書を税理士に任せきりにしてしまいがちです。
しかし、経営者自身が数字を理解していなければ、以下のようなリスクがあります。
- 収益は出ているのに資金が不足する「黒字倒産」のリスク
- 借入金の返済負担が実際にどの程度の影響を与えているかを把握できない
- 将来の修繕や退去リスクに備える資金計画が立てられない
- 銀行からの融資判断で不利になる可能性
👉 つまり、PLとBSを理解することは「数字を読む」だけではなく、不動産経営を持続的に成長させるための戦略を立てる基盤なのです。
PLとBSを理解しないまま進めるリスク
数字を軽視した不動産経営は、一見うまくいっているようでも、次のような落とし穴があります。
- 見かけ上の利益に惑わされる
家賃収入が安定していても、減価償却費や利息を考慮すると赤字になるケースがある。 - キャッシュフローを見誤る
PLで黒字でも、返済や修繕費の支出で現金が不足することがある。 - 資産価値の低下を把握できない
BSを見ないと、不動産の資産価値と負債のバランスが崩れていることに気づかない。
👉 その結果、投資判断を誤り、経営全体が不安定になる可能性があります。
不動産経営におけるPLとBSの役割
結論として、経営者がまず理解すべきなのは、
- PL(損益計算書)=1年間の経営成績を表す成績表
- BS(貸借対照表)=ある時点の財務状況を表す健康診断書
この2つを組み合わせることで、収益力と財務基盤を同時に把握でき、将来の投資判断や資金繰り改善に役立ちます。
PL(損益計算書)の基本構造
PLは「1年間の収益と費用、その差額である利益」を示す表です。
不動産経営における代表的な構成は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 売上高 | 家賃収入・共益費・駐車場収入など | 安定性を確認 |
| 営業費用 | 修繕費、管理費、広告費など | 変動費と固定費を区別 |
| 営業利益 | 売上-営業費用 | 本業の稼ぐ力を表す |
| 営業外費用 | 借入金利息など | レバレッジ効果と負担を確認 |
| 経常利益 | 営業利益-営業外費用 | 実質的な収益力 |
| 特別損益 | 売却益・売却損 | 一時的要因の影響を区別 |
| 当期純利益 | 最終的な利益 | キャッシュフローと一致しない点に注意 |
👉 PLでは「利益が出ているか」だけでなく、どの費用が収益を圧迫しているのかを把握することが重要です。
BS(貸借対照表)の基本構造
BSは「資産」「負債」「純資産」の3要素で構成されます。
不動産経営では次の点に注目すると読みやすくなります。
| 区分 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 資産 | 現金、建物、土地、未収家賃など | 流動資産と固定資産を区別 |
| 負債 | 借入金、未払費用、敷金預り金など | 返済スケジュールを確認 |
| 純資産 | 元本、利益剰余金など | 自己資本比率を把握 |
👉 BSを読むことで、**「この会社(物件経営)がどれだけ安定しているか」**を数値で確認できます。
PLとBSの関係性
PLとBSはそれぞれ独立した表ですが、実際には密接につながっています。
- PLで出た利益は、翌期のBSに「利益剰余金」として反映される
- BSの借入金返済はPLに「利息費用」として影響する
- 減価償却はPLでは費用だが、現金流出がないためBSのキャッシュには残る
👉 この連動を理解することで、「黒字なのに現金が足りない」などの矛盾を解消できます。
不動産経営におけるPLの実例と分析
事例1:賃貸マンションのPL
| 項目 | 金額(年間) | コメント |
|---|---|---|
| 家賃収入 | 1,200万円 | 1棟20戸×月5万円の入居率95% |
| 共益費収入 | 60万円 | 入居者からの管理費徴収 |
| 修繕費 | 100万円 | 大規模修繕の積立を含む |
| 管理委託料 | 120万円 | 管理会社へ支払い |
| 減価償却費 | 200万円 | 築15年鉄筋コンクリート造 |
| 借入金利息 | 150万円 | 返済残高1億円 |
| 税引前利益 | 690万円 | 実質的な収益力を示す |
👉 ポイント
- 減価償却費200万円を考慮しても、利益がしっかり確保できている。
- 修繕費の割合がやや高く、将来の収益圧迫リスクがある。
- 借入金の利息負担が収益の約2割を占めている点を注視。
事例2:戸建賃貸のPL
| 項目 | 金額(年間) | コメント |
|---|---|---|
| 家賃収入 | 120万円 | 月10万円の入居 |
| 修繕費 | 20万円 | 設備交換が中心 |
| 減価償却費 | 40万円 | 木造築10年 |
| 借入金利息 | 10万円 | 借入は少額 |
| 税引前利益 | 50万円 | 利益率は高め |
👉 ポイント
- 戸建賃貸は修繕費と空室リスクが収益に直結。
- 借入金が少ないため利息負担が軽い。
- 収益率は高いが、入居が途切れると一気に収益ゼロになるリスクがある。
不動産経営におけるBSの実例と分析
事例1:賃貸マンションのBS
| 区分 | 金額 | コメント |
|---|---|---|
| 現金預金 | 500万円 | 修繕積立を含む |
| 建物 | 1億円 | 減価償却後の簿価 |
| 土地 | 8,000万円 | 評価減しにくい安定資産 |
| 借入金 | 1億円 | 残高が高く、返済負担大 |
| 敷金預り金 | 500万円 | 将来返還義務あり |
| 純資産 | 8,000万円 | 自己資本比率40% |
👉 ポイント
- 土地は資産安定の基盤となるが、借入金が重く圧迫要因。
- 敷金預り金は一見資金だが「返す義務がある負債」である点に注意。
- 自己資本比率40%は悪くないが、金融機関から見るとややリスクあり。
事例2:戸建賃貸のBS
| 区分 | 金額 | コメント |
|---|---|---|
| 現金預金 | 50万円 | 流動性が低い |
| 建物 | 2,000万円 | 減価償却が進行中 |
| 土地 | 1,500万円 | 将来売却益の期待あり |
| 借入金 | 1,000万円 | 比較的軽い負担 |
| 純資産 | 2,550万円 | 自己資本比率60%以上 |
👉 ポイント
- 借入金が少なく、財務安定性が高い。
- 現金が少なく、修繕など突発的な支出に弱い。
- 長期的には安定しているが、流動性の低さがリスクになる。
PLとBSを組み合わせた分析の重要性
- PLで利益が出ていても、BSを見ると借入金が多く財務リスクが高いケースがある。
- BSで資産が多くても、PLで赤字が続けば経営は持続できない。
- 両方を同時に読み解くことで、キャッシュフロー・収益性・財務健全性のバランスを確認できる。
経営者が今日からできるPL・BS活用の行動ステップ
1. 毎月の数字を自分で確認する習慣をつける
- 会計ソフトや管理会社のレポートでPLを確認
- 家賃収入、修繕費、管理費など主要科目を毎月チェック
👉 「利益がどこで増減しているか」を把握できるようになります。
2. 年に一度はBSを点検する
- 借入金残高と返済スケジュールを確認
- 現金残高と修繕積立のバランスを確認
- 敷金預り金や未収家賃の処理を確認
👉 財務状況を可視化し、返済リスクや資金不足リスクを未然に把握できます。
3. キャッシュフロー表を作成する
- PLとBSの情報をもとに、現金収支をシミュレーション
- 借入返済・修繕・税金などの支出を見込んで余裕資金を計算
👉 黒字倒産を防ぎ、将来の投資余力を見極められます。
4. 銀行や税理士との対話に活用する
- PLの利益推移を見せて「収益性」をアピール
- BSで自己資本比率や借入金返済能力を説明
👉 金融機関からの融資判断や税務戦略に直結します。
5. 定期的に見直す仕組みを作る
- 毎月:PLを確認し、収益と費用の変化を把握
- 毎年:BSを精査し、財務体質を改善する施策を検討
- 長期:複数年分の数字を比較し、投資や売却の判断材料にする
👉 継続的に数字を見ることで、経営判断の精度が高まるのです。
まとめ:数字を理解することが不動産経営成功の第一歩
PLとBSは単なる会計資料ではなく、不動産経営の健康状態を示す診断書です。
- PLで「どれだけ稼げているか」を確認
- BSで「どれだけ安定しているか」を確認
- 両方を組み合わせて「将来の投資余力」を見極める
この習慣を持つことで、安定経営だけでなく、次の投資チャンスを逃さない体制を築けます。

