不動産売却で発生する「譲渡益」とは
不動産を売却したとき、売却価格から取得費や売却にかかった諸経費を差し引いた金額を「譲渡益(じょうとえき)」と呼びます。
簡単に言えば、不動産売買によって得た「利益」の部分です。
譲渡益が発生すると、所得税と住民税が課税されます。さらに一定の場合には復興特別所得税も加わります。
つまり、不動産を売却して利益が出れば必ず税金がかかるという点を押さえておく必要があります。
不動産売却で想定される課題
多くの不動産オーナーや事業者が直面する悩みは次のようなものです。
- 「思った以上に税金が高く、手取りが少なくなる」
- 「短期と長期で税率が違うと聞いたが、どう違うのか分からない」
- 「譲渡益を減らす方法や節税策はあるのか」
- 「法人名義で売却した場合と個人の場合で何が違うのか」
特に、短期譲渡と長期譲渡で税率が大きく異なる ため、売却のタイミングを間違えると、数百万円単位で手取りが変わってしまうケースもあります。
税率の仕組みを理解することが重要
不動産譲渡益の税金は、他の所得(給与や事業所得など)とは区別して計算される「分離課税方式」が採用されています。
そのうえで、所有期間が5年以下か、5年超か によって適用される税率が変わります。
- 短期譲渡所得(5年以下) → 税率が高い
- 長期譲渡所得(5年超) → 税率が低い
この違いを理解しておくことが、不動産売却を有利に進める第一歩です。
不動産譲渡益の税率(短期・長期の比較)
不動産売却益にかかる税率を整理すると以下のとおりです。
| 区分 | 所有期間 | 所得税率 | 住民税率 | 復興特別所得税 | 合計税率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% | 所得税×2.1% | 約39.63% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% | 所得税×2.1% | 約20.315% |
※所有期間の判定は「売却した年の1月1日時点で5年を超えているかどうか」で判断します。
このように、短期と長期でおよそ倍近い税率差があります。例えば1,000万円の譲渡益が出た場合、短期なら約396万円の税金、長期なら約203万円の税金が発生します。
売却のタイミングが節税のカギ
「あと数か月待てば所有期間が5年を超える」というケースでは、売却時期を調整するだけで数百万円単位の節税が可能です。
そのため、売却を検討する際には、必ず「所有期間」と「譲渡益にかかる税率」を確認することが欠かせません。
短期譲渡と長期譲渡で税率が変わる理由
投機的売買を抑制するため
国の税制は「短期的な投資目的で不動産を転売し、利益を得る行為」を抑制する狙いがあります。
そのため、所有期間が短い不動産の売却益には高い税率を課し、逆に長期保有した不動産には低い税率を適用しています。
つまり、長期保有による安定的な資産形成を促進し、短期的な売買による市場の混乱を防ぐことが制度の背景にあるのです。
所得税の仕組みと分離課税
不動産譲渡益は「譲渡所得」と呼ばれ、給与所得や事業所得と区分して課税されます。これを 分離課税 といいます。
- 他の所得と合算されない
- 所得税と住民税が一律の税率で課される
- 長期か短期かで税率が変動する
分離課税のため、所得が高い人でも低い人でも同じ税率が適用されます。特に短期譲渡では39.63%と高い負担率になるため、売却タイミングの重要性が増します。
所有期間の数え方に注意
不動産の所有期間は「売却した年の1月1日時点」で判定されます。
たとえば以下のようなケースがあります。
- 2019年6月に購入した不動産を2024年7月に売却
→ 2024年1月1日時点で4年7か月しか経っていないため、短期譲渡 と判定 - 2019年6月に購入した不動産を2025年7月に売却
→ 2025年1月1日時点で5年7か月経過しているため、長期譲渡 と判定
「実際に売却する日」ではなく「その年の1月1日基準」で判断される点がポイントです。
譲渡所得の計算方法
税額を知るためには、まず譲渡所得を正しく計算する必要があります。計算式は次のとおりです。
譲渡所得 = 譲渡価格(売却額)-(取得費 + 譲渡費用)
- 取得費:購入価格、仲介手数料、登録免許税、不動産取得税、設備改良費など
- 譲渡費用:売却時の仲介手数料、測量費、建物解体費など
この「譲渡所得」に対して、短期・長期の区分ごとの税率を掛けて税額を算出します。
税額計算のイメージ
例:不動産を5,000万円で売却、取得費は3,500万円、譲渡費用が200万円の場合
- 譲渡所得 = 5,000万円 -(3,500万円+200万円)= 1,300万円
- 短期譲渡(税率39.63%)→ 税額 約515万円
- 長期譲渡(税率20.315%)→ 税額 約264万円
同じ条件でも、短期と長期では約250万円の差が出ることになります。
税率以外に影響する要素
不動産譲渡税額に影響する要素は税率だけではありません。
- 特例や控除の有無
例:居住用財産の3,000万円特別控除、10年超所有の軽減税率など - 売却する不動産の種類
土地・建物・マンションによって経費や控除の扱いが変わる - 法人か個人か
法人の場合は法人税率が適用され、短期・長期の区分は存在しない
これらもあわせて考える必要があります。
不動産譲渡益に適用できる主な特例と節税策
居住用財産の3,000万円特別控除
マイホーム(居住用財産)を売却した場合、譲渡益から 最大3,000万円を控除 できる制度です。
- 適用条件:
- 自分が住んでいた家や敷地であること
- 売却の際に一時的に空き家でも可(転居後3年以内など条件あり)
- 節税効果:
- 譲渡益が3,000万円以下なら非課税
- それ以上でも課税対象が大幅に減る
例:譲渡益2,800万円 → 控除で課税ゼロ
10年超所有軽減税率の特例
マイホームを10年以上所有している場合、長期譲渡所得に軽減税率が適用されます。
- 所得6,000万円以下部分 → 所得税10%、住民税4%(合計14.21%)
- 所得6,000万円超部分 → 所得税15%、住民税5%(合計20.315%)
通常の長期譲渡(約20.315%)よりも税率が低くなり、大きな節税効果があります。
買換え・交換の特例
居住用財産を売却して、新たにマイホームを取得する場合、譲渡益への課税を繰り延べることができます。
- 売却益が出ても新しい住宅の取得費に加算され、当面課税されない
- ただし将来売却する際には繰り延べ分を含めて課税される
長期的な資産形成を考える場合に有効です。
相続した不動産の特例(空き家の譲渡)
相続した空き家を売却した場合、一定の条件を満たせば 最大3,000万円の特別控除 を受けられます。
高齢者が住んでいた旧耐震基準の住宅などが対象で、相続人にとって節税効果が大きい制度です。
節税策の実践的アプローチ
売却時期の調整
- 所有期間が5年を超えるまで売却を待つ
- 年末ではなく翌年に売却して課税を繰り延べる
所有期間や譲渡益の発生タイミングをずらすだけで、数百万円単位の節税が可能になります。
譲渡費用をしっかり計上
譲渡益を小さくするには、売却にかかった費用を漏れなく計上することが重要です。
- 仲介手数料
- 測量費
- 建物解体費
- 印紙代
これらを正しく計上すれば、課税対象額を抑えられます。
法人化の検討
法人が不動産を保有・売却する場合、短期・長期の区分はなく、法人税率で一律に課税されます。
利益規模や事業の方向性によっては、法人化した方がトータルで有利になる場合もあります。
ケーススタディ:節税効果の比較
| ケース | 譲渡益 | 適用制度 | 税額イメージ |
|---|---|---|---|
| 個人A | 2,800万円 | 3,000万円特別控除 | 0円 |
| 個人B | 5,000万円 | 長期譲渡(20.315%) | 約1,015万円 |
| 個人C | 5,000万円 | 10年超所有軽減税率(14.21%) | 約710万円 |
| 相続D | 2,500万円 | 相続空き家3,000万円控除 | 0円 |
このように、制度を活用するかどうかで税額が大きく変わることがわかります。
不動産売却時に取るべき行動ステップ
1. 売却前に所有期間を確認する
不動産の所有期間が「短期」か「長期」かで税率が倍近く変わります。
契約や登記の日付を確認し、売却を急ぐ必要がなければ 5年超に達するまで待つ ことを検討しましょう。
2. 譲渡費用を正しく計上する
仲介手数料や登記費用、測量費、建物解体費など、売却に直接かかった費用はすべて「譲渡費用」として控除できます。領収書や契約書を整理し、漏れがないようにしましょう。
3. 適用できる特例を確認する
- 居住用財産の3,000万円特別控除
- 10年超所有軽減税率
- 買換え・交換の特例
- 相続空き家の3,000万円控除
これらの制度は条件を満たせば強力な節税策となります。
4. 売却時期を戦略的に決める
年末に売却するか、翌年に持ち越すかによって、課税のタイミングが変わります。資金繰りや他の所得との兼ね合いを考えて、最適な売却時期を選びましょう。
5. 専門家に相談する
不動産の税制は複雑であり、申告漏れや誤りがあると税務署からの指摘や追徴課税のリスクがあります。顧問税理士や不動産に強い専門家に相談し、節税のシミュレーションを行うことをおすすめします。
まとめ:短期か長期かで大きく変わる不動産譲渡税
不動産売却で得られる譲渡益には、必ず税金がかかります。
特に、所有期間が5年以下か、5年超か で税率が大きく異なり、短期なら約39.63%、長期なら約20.315%となります。
さらに、居住用財産の特例や10年超所有軽減税率を活用すれば、税負担を大きく軽減できます。
売却を検討している方は、必ず所有期間や特例の適用可否を確認し、売却時期や方法を戦略的に決めることが大切です。
「あと数か月待つだけで数百万円の節税につながる」ことも少なくありません。
不動産売却は人生に何度もあるわけではないため、事前準備と専門家への相談が成功のカギとなります。

