税務調査はなぜ行われるのか
法人経営者にとって「税務調査」は避けて通れない存在です。税務署は申告内容の正確性を確認するために調査を行い、必要に応じて修正申告や追徴課税を求めます。
ただし、すべての法人に毎年入るわけではなく、「入りやすい法人」と「そうでない法人」 の傾向があります。
そのため、調査対象になりやすい法人の特徴を知っておくことが、日常的なリスク管理に直結します。
経営者が抱く不安と疑問
税務調査と聞くと、多くの経営者が次のような疑問や不安を抱えます。
- 「うちの会社は調査対象になりやすいのか?」
- 「どんな法人が狙われやすいのか知りたい」
- 「調査で指摘されやすいポイントはどこか?」
- 「事前にできる準備や対策はあるのか?」
こうした疑問を放置したままでは、不意に調査が入ったときに大きなダメージを受けかねません。
税務調査が入りやすい法人の特徴
結論から言えば、税務調査が入りやすい法人にはいくつかの共通点があります。代表的なものは次の通りです。
1. 売上や利益が急増している法人
前年と比べて売上や利益が大きく伸びている場合、「申告が適正に行われているか」を確認するため調査対象になりやすくなります。
2. 赤字申告が続いている法人
赤字が続いていると「本当に赤字なのか」「経費計上に問題がないか」と疑われやすく、調査が入りやすくなります。
3. 現金取引が多い業種の法人
飲食業、小売業、建設業など現金のやり取りが多い業種は、売上の除外や経費の水増しが発生しやすいとされ、重点的に調査されます。
4. 交際費や役員報酬が多い法人
交際費や役員報酬は「私的流用ではないか」と疑われやすく、調査で必ずチェックされるポイントです。
5. 税務署からの問い合わせに対応が不十分な法人
過去に税務署からの書類提出依頼や問い合わせに対して適切な対応をしていない法人は、信頼性が低いと判断され、調査対象となる可能性が高まります。
税務調査が集中するタイミング
税務調査には入りやすい時期やタイミングもあります。
- 設立から3〜5年目の法人(初めての調査対象になりやすい)
- 多額の設備投資や不動産購入をした年度
- 大幅な売上増減や業績変動があった年度
- 役員退職金を支給した年度
つまり、法人のライフイベントや大きな取引がある年度は、税務調査が入りやすい傾向があります。
税務署が特に注目するポイント
売上計上の正確性
税務調査で最も重視されるのが「売上の計上漏れがないか」です。
- 売上伝票や領収書と会計帳簿の整合性
- 銀行口座の入金記録との突合
- 現金売上の管理状況
これらを突き合わせ、不自然な差異がないか徹底的に確認されます。
経費の妥当性
経費計上が適切かどうかも重点的に調査されます。
- 交際費 → 実際には私的支出ではないか
- 車両費 → 事業利用割合が過大でないか
- 家賃 → 社宅や自宅利用を経費にしていないか
経費の根拠を示す領収書や契約書の整備が不十分だと、否認されやすい項目です。
役員報酬と賞与
役員報酬は法人税法上「定期同額給与」「事前確定届出給与」などの要件を満たしていなければ損金算入できません。
- 毎月の支給額がバラバラになっていないか
- 事前届出をせずに臨時の賞与を支給していないか
これらは税務署が非常に注目するポイントです。
在庫・棚卸資産
製造業や小売業では、期末在庫の評価が利益計算に大きく影響します。
- 在庫数量の水増しや過少計上
- 低価法の不適用
- 実際には廃棄されていない商品の処理
在庫管理がずさんだと、税務署から厳しく指摘されます。
指摘されやすい事例
事例1:売上の除外
飲食店A社では、現金売上の一部を帳簿に記載せず、生活費に流用していたことが調査で発覚しました。
結果として数百万円の追徴課税と重加算税が課されました。
事例2:過大な交際費
建設業B社では、役員の家族旅行費用を「接待交際費」として処理していました。
領収書の内容と実態が一致せず、私的経費と認定され、否認の対象となりました。
事例3:役員報酬の増額
製造業C社では、業績好調を理由に期中で役員報酬を増額しました。
定期同額給与の要件を満たさず、増額分は損金不算入とされました。
事例4:架空人件費
サービス業D社では、実際に勤務していない親族を「アルバイト」として給与計上していました。
源泉徴収票や勤務実態がなく、完全に否認。多額の追徴課税につながりました。
税務署が見る視点を理解する重要性
これらの事例から分かる通り、税務署は「売上除外」と「経費の水増し」を中心に、帳簿と実態が一致しているかを徹底的にチェックします。
逆に言えば、実態に基づいた正確な処理を行い、証拠書類を整備しておくことが最大の防御策です。
税務調査に備えるための事前準備
帳簿・証憑の整理
税務調査で最も重要なのは、帳簿や証憑(領収書・契約書・請求書など)が適切に保存されているかどうかです。
- 売上伝票・請求書を日付順にファイリング
- 経費領収書は用途をメモして保存
- 契約書や取引基本契約を電子化してクラウド保存
- 電子帳簿保存法に対応したシステムを導入
書類が整っていれば、税務署に「きちんと管理している法人」という印象を与え、調査の進行もスムーズになります。
経費処理ルールの明確化
法人内で経費処理のルールを作っておくことが重要です。
- 交通費・交際費は用途と参加者を必ず記録
- 社用車は運行記録簿をつける
- 家事関連費用と事業経費を分離
- 社宅や役員自宅を利用する場合は賃貸借契約書を準備
これらのルールを徹底すれば、税務署に指摘される余地を減らせます。
役員報酬・賞与の事前届出
役員報酬や賞与は税務上の要件が厳格に定められているため、事前の手続きが不可欠です。
- 定期同額給与は年初に決定し、毎月同額支給
- 事前確定届出給与は所定の期限内に税務署へ届出
- 臨時支給は基本的に損金算入不可
書類と実際の支払いが一致していることを確認しましょう。
在庫・資産の管理
製造業・小売業など在庫を持つ法人は、在庫数量や評価方法を毎期適正に管理することが求められます。
- 棚卸表と実物の一致を確認
- 廃棄する在庫は写真や廃棄証明を残す
- 固定資産は取得時の契約書や領収書を保管
在庫や資産の管理がずさんだと、売上や経費の信頼性まで疑われることになります。
内部チェック体制の整備
税務調査に備えて、日常的に内部チェックを行う体制を構築しましょう。
- 経理担当者だけでなく、経営者も定期的に帳簿を確認
- 税理士と毎月面談し、疑わしい処理をなくす
- 社内規定を作り、ルール化する
小規模法人でも、外部の専門家を交えた「二重チェック体制」を持つだけで、税務リスクを大幅に低減できます。
事前準備の効果
これらの準備を行っておくと、以下の効果が得られます。
- 税務調査での指摘リスクが減る
- 調査官に「信頼できる法人」と思わせられる
- 無駄な修正申告や追徴課税を回避できる
- 経理体制の改善につながり、日常業務も効率化
税務調査が入ったときの具体的な対応
1. 事前通知を受けたら
通常、税務調査は事前に電話や文書で通知があります。
- 日程調整を冷静に行う
- 税理士に連絡し立ち会いを依頼
- 調査対象期間・論点を確認
慌てて書類を作り直すのではなく、普段の経理処理のまま提示できるよう準備することが重要です。
2. 当日の立ち振る舞い
調査官が来社した当日は、経営者や経理担当者が冷静に対応する必要があります。
- 不明点は即答せず、資料を確認して回答する
- 推測や曖昧な説明は避ける
- 税務署の質問には誠実に対応する
- 必要に応じて税理士に回答を任せる
不用意な発言が誤解を生み、余計な指摘につながるケースもあるため要注意です。
3. 書類提出時の注意点
税務調査では多くの資料提出が求められます。
- 領収書・契約書は整理して提示
- 電子データは整合性が取れる形で準備
- 不要な書類まで渡さない(調査範囲外の情報を与えない)
調査官に「整備されている」と思わせられると、その後の調査もスムーズになります。
4. 指摘事項への対応
もし調査で指摘を受けた場合は、冷静に対応しましょう。
- 事実に基づき反論できる場合は、資料を用いて説明
- 誤りが明らかな場合は修正申告を検討
- 追徴課税が発生する場合は、資金繰りも同時に確認
「争うべき点」と「受け入れるべき点」を整理することが、ダメージを最小限に抑えるポイントです。
5. 調査後の改善
税務調査は一度きりではなく、将来また行われます。調査後には改善策を講じることが重要です。
- 指摘された点を社内ルールとして見直す
- 経理処理マニュアルを作成
- 税理士と相談し、翌期以降の対応を徹底
改善を続けることで「調査に強い法人」へと成長できます。
まとめ:調査に強い法人になるために
税務調査は、法人経営者にとって避けられないものです。しかし、
- 「入りやすい法人」の特徴を理解して日常的に備える
- 帳簿・証憑を整理し、内部チェック体制を強化する
- 調査が入っても冷静に対応し、専門家を活用する
これらを実践することで、調査のリスクを最小限に抑え、健全な経営を継続できます。
税務調査は「恐れるもの」ではなく、経営を見直す良い機会と捉えることが成功への第一歩です。

