所得が途絶えるリスクは誰にでもある
事業を営む経営者やフリーランスにとって、健康で働き続けられることは最大の資産です。
しかし、病気やケガによって長期間働けなくなれば、売上や給与といった「所得」が途絶え、生活や事業運営に深刻な影響を与えます。
従業員であれば傷病手当金などの制度である程度の収入を補填できますが、個人事業主や小規模経営者は公的制度の対象外となるケースが多く、万が一のリスクに対して脆弱です。
その備えとして注目されているのが 所得補償保険 です。
所得補償保険とは何か?
所得補償保険とは、病気やケガで働けなくなったときに、一定期間にわたり収入を補填してくれる保険です。
医療保険が「治療費」をカバーするのに対し、所得補償保険は「生活費や事業運営資金」を守る点が特徴です。
たとえば、経営者が1年間入院することになれば、治療費は医療保険で補えますが、その間の生活費や住宅ローン、事務所の家賃、従業員給与などは所得補償保険でカバーできるのです。
なぜ今、所得補償保険が必要とされるのか
現代のビジネス環境では、働けなくなるリスクが以前より身近になっています。
- 生活習慣病の増加:糖尿病や心疾患などで長期療養が必要となる人が増加
- 精神疾患による休業:うつ病や適応障害による就労不能リスクが拡大
- 高齢化による経営者の長期就業:退職年齢を過ぎても働き続ける経営者が増え、病気リスクに直面する可能性が高い
こうした背景から、所得補償保険は「もはや任意ではなく必要性が高い保険」といえるでしょう。
所得補償がない場合に起こる経営リスク
もし経営者や個人事業主が働けなくなり、所得が途絶えた場合、どのようなリスクがあるでしょうか?
- 家計の固定費(住宅ローン、教育費、生活費)が払えなくなる
- 事務所や店舗の家賃、光熱費などの運営コストが継続できない
- 従業員給与の支払いが滞り、離職につながる
- 借入金の返済が難しくなり、信用問題に発展する
- 最悪の場合、事業継続そのものが困難になる
このように、所得の途絶は経営者個人だけでなく、家族・従業員・取引先にまで影響が及ぶ重大なリスクなのです。
読者が抱える典型的な疑問
経営者やフリーランスからよく聞かれる疑問は次の通りです。
- 所得補償保険は医療保険や生命保険とどう違うのか?
- どのくらいの金額まで補償してもらえるのか?
- 保険料はどの程度かかるのか?
- 個人契約と法人契約の違いは?
- 税務上、経費にできるのか?
こうした疑問を整理し、経営者目線での実務的な活用法を解説することが重要です。
所得補償保険は経営者・個人事業主にとって必須に近い保険
結論から言えば、経営者や個人事業主にとって所得補償保険は「加入しておくべき保険」 です。
なぜなら、他の保険ではカバーできない「働けない期間の生活費・事業費」を補う唯一の手段だからです。
- 医療保険 → 治療費は補償するが、生活費は対象外
- 生命保険 → 死亡時の家族の生活を守るが、就業不能時には使えない
- 所得補償保険 → 病気やケガで働けない間の収入を補填できる
つまり、所得補償保険は 「生きているが働けないリスク」 をカバーするものであり、経営者やフリーランスにとって欠かせないセーフティーネットです。
法人経営者にとっての具体的な意義
特に中小企業の経営者にとって、所得補償保険は事業と家庭の両面を守ります。
- 事業の継続性確保
→ 所得補償があれば、経営者が不在でも固定費や給与を確保できる - 家族の生活安定
→ 住宅ローンや教育費など、日常生活を守る資金を確保できる - 信用維持
→ 借入金の返済遅延を防ぎ、金融機関や取引先からの信頼を保てる
これらは単なる「保険」ではなく、経営リスクマネジメントの一環といえます。
フリーランスにとっての意義
フリーランスは従業員とは異なり、傷病手当金などの公的補償制度が適用されない場合が多い という現実があります。
そのため、病気やケガによる就業不能は即「無収入」という事態を招きます。
所得補償保険があれば、以下のような安心が得られます。
- 契約期間中、毎月の生活費を確保できる
- 事業再開までの間、貯蓄を切り崩さずに済む
- 家族に経済的な負担をかけない
加入を検討すべき経営者・事業主の特徴
特に以下のような経営者や事業主は、加入の優先度が高いといえます。
- 従業員を抱えており、給与支払いの責任がある
- 借入金を抱えており、返済を継続する必要がある
- 住宅ローンや教育費など、固定費の負担が大きい
- 公的補償制度が十分に使えない立場にある(フリーランスなど)
- 自分が倒れると事業が止まる「ワンマン経営」の形態
こうしたケースでは、所得補償保険は単なる保険ではなく、事業存続の生命線 としての役割を果たします。
所得補償保険の基本的な仕組み
所得補償保険は、契約者が病気やケガで働けなくなった場合に「就業不能状態」と認定されると、毎月一定額の給付金が支払われる仕組みになっています。
仕組みの流れ
- 保険契約を結び、補償額(月額)と補償期間を設定
- 病気やケガで働けなくなり、医師の診断書などで「就業不能」と判断される
- 免責期間(支払い開始までの待機期間)を経て、毎月保険金が給付される
- 就業不能状態が解消されるまで、または契約期間満了まで給付が継続
所得補償保険の大きなメリット
1. 所得を直接補填してくれる
他の保険と異なり、生活費や事業費に使える「現金収入」を補填 してくれるのが最大のメリットです。
治療費だけでなく、家族の生活費・住宅ローン・事務所の家賃・従業員給与など幅広く活用できます。
2. 公的制度の不足を補える
- 会社員 → 傷病手当金が支給されるが、標準報酬月額の3分の2が上限
- 個人事業主やフリーランス → 原則として傷病手当金なし
この差を埋めるのが所得補償保険です。特にフリーランスや経営者は「自己防衛」が必要不可欠です。
3. 長期的な安心を確保できる
契約次第では数年単位で給付が続くため、長期療養や慢性疾患で復帰が遅れても安心です。
また、一定期間働けないだけで廃業や倒産に直結する経営者にとっては大きな安心材料となります。
4. 税務上の取り扱い
- 個人契約 → 保険料は原則として必要経費に算入できない
- 法人契約 → 給与扱いで役員・従業員に付保する場合、一定条件で損金算入可能
法人契約の設計によっては、節税と福利厚生を兼ねられる点もメリットです。
他の保険との比較
| 保険の種類 | 補償対象 | 給付の内容 | 経営者にとっての役割 |
|---|---|---|---|
| 医療保険 | 入院・手術費用 | 治療費を実費または定額給付 | 医療費負担を軽減 |
| 生命保険 | 死亡時 | 遺族に一時金 | 家族の生活保障 |
| 所得補償保険 | 就業不能時の収入減 | 毎月の所得を補填 | 事業・生活の継続支援 |
この比較からも分かるように、所得補償保険は「働けないリスク」を唯一カバーできる存在であることが明確です。
所得補償保険の注意点
もちろん、メリットだけではなく注意すべき点もあります。
- 保険料は他の保険に比べてやや高め
- 就業不能の定義が商品によって異なるため、支払い条件を確認する必要がある
- 免責期間(30日、60日、90日など)によって、支払い開始のタイミングが異なる
- 精神疾患は補償対象外の商品もある
したがって、加入時には「自分の職業リスク」や「家計の負担」と照らし合わせて慎重に設計する必要があります。
実際の活用事例とシミュレーション
事例1:小規模企業の社長が入院したケース
製造業を営むA社の社長(45歳)が、交通事故で3か月間入院することになりました。
- 状況:社長は実質的に営業の要であり、売上が大幅に減少
- 対応:所得補償保険で月額50万円の給付を受け、生活費と会社の固定費をカバー
- 結果:資金繰りに余裕が生まれ、復帰後も事業を継続できた
事例2:フリーランスデザイナーの病気休業
フリーランスとして活動するBさん(38歳)が、うつ病を発症し半年間休業。
- 状況:公的制度の対象外で収入ゼロのリスク
- 対応:所得補償保険で月20万円の給付を受け、家賃や生活費をカバー
- 結果:経済的な不安が軽減され、治療に専念できた
事例3:借入金を抱える飲食店オーナー
飲食店を経営するCさん(50歳)は、糖尿病悪化で1年間休業。
- 状況:月30万円のローン返済と従業員給与の支払いに直面
- 対応:法人契約の所得補償保険を活用し、返済と給与を滞りなく支給
- 結果:事業閉鎖を回避し、回復後に営業を再開
シミュレーション:加入の有無での違い
月収50万円の経営者が、病気で6か月間働けなくなったケースを比較します。
| 加入の有無 | 収入 | 支出 | 家計・事業への影響 |
|---|---|---|---|
| 所得補償保険あり(月額30万円補償) | 180万円 | 生活費・事業費で180万円 | 家計は維持、事業も継続可能 |
| 所得補償保険なし | 0円 | 生活費・事業費で180万円 | 貯蓄を切り崩し、借金や廃業リスク |
→ 所得補償保険があるだけで、事業と生活の継続可能性が大きく変わります。
経営者・フリーランスが取るべき行動ステップ
ステップ1:リスクを把握する
- 「自分が働けなくなったら、収入はどれくらい途絶えるか」
- 「固定費はいくら必要か」
ステップ2:必要補償額を試算する
- 月額生活費+事業固定費を合計
- 公的補償の有無を考慮し、不足分を保険でカバー
ステップ3:免責期間と補償期間を選ぶ
- 短期的な休業が多い人 → 免責30日・補償1年
- 長期リスクを想定する人 → 免責90日・補償5年
ステップ4:法人契約か個人契約かを検討
- 法人契約 → 損金算入の可能性あり、福利厚生としても活用
- 個人契約 → 自身と家族を守る目的で加入
ステップ5:定期的に見直す
- 収入や事業規模に合わせて、補償額を調整
まとめ
- 所得補償保険は、病気やケガで「働けないリスク」に備える唯一の保険
- 経営者やフリーランスにとって、事業継続と生活安定の両方を守る手段
- 実際の事例やシミュレーションからも、その効果は明確
- 保険料や条件を理解した上で、自分に合った設計を行うことが大切

