不動産賃貸業を法人化すると節税の選択肢が一気に広がる
個人で不動産賃貸業を行っていると、所得が増えるほど税率が上がり、
- 所得税:最大約45%
- 住民税:10%
という高い税率が適用される場合があります。
特に、
・アパート経営が軌道に乗ってきた
・物件を複数棟保有している
・年間利益が1,000万円を超えてきた
・これから買い増ししたい
という方にとって、税負担は経営戦略を左右する重要テーマです。
そこで検討されるのが 不動産賃貸業の法人化。
法人を設立し、不動産を法人に移転して収益事業を法人で行えば、税率の仕組みが変わり、利益の最適化がしやすくなります。
しかし、法人化は
- 所得税 → 法人税
- 社会保険
- 資産移転時の課税
- 減価償却の引継ぎ
- 気を付けたい税務リスク
など、検討すべき点が非常に多く、「やり方次第で節税にも増税にもなりうる」難易度の高い論点です。
本記事では、不動産投資初心者でも理解できるように
個人 → 法人移行時の税金・シミュレーション・手続き・判断基準 を体系的に整理します。
個人の不動産賃貸業で発生する税負担の全体像
法人化のメリットを理解するためには、まず「個人で不動産を所有し続ける場合の税金」を明確にしておく必要があります。
●所得税は超過累進課税で税率が上昇
個人の場合、所得が増えるほど税率が上がります。
所得税+住民税の合計(簡易)
- 年間利益 500万円 → 約30%
- 年間利益 1,000万円 → 約43%
- 年間利益 1,500万円 → 約50%近く
利益が大きいほど、法人税率(約23%)との差は広がります。
●経費計上の自由度が限定的
個人の場合、
- 家族への給与は青色事業専従者給与の範囲
- 社会保険料の仕組みは選べない
- 退職金の制度がない
など、経費・制度の使い勝手は法律で制限されています。
●赤字の繰越控除は3年
法人は最大10年繰越できるのに対し、個人は3年までしか繰越せません。
築古物件を購入して初期に大きな修繕を行った場合など、差が強く出ます。
法人化すると税金のルールがどう変わるのか
法人へ移行することで、税金の仕組みが大きく変わります。
●法人税は一定税率
法人税は利益に応じて変動しますが、
中小企業なら概ね 約23%前後 が目安となります。
個人と違い、利益が増えても税率が急に跳ね上がることはありません。
●家族への給与が経費になる
個人の場合は「専従者給与」という制度があり、要件が厳しいのが難点です。
しかし法人なら、
- 配偶者
- 子ども
- 親
に仕事に応じた給与を支給でき、その給与は全額経費にできます。
●社会保険への加入が節税にも負担にもなる
法人になると原則として社会保険に加入します。
- 社会保険料は負担になる
- しかし経費になる
- 役員報酬の調整で負担をコントロールできる
特に不動産賃貸業では、役員報酬を抑えることで負担を軽減しつつ、法人利益を残す運用が可能です。
●退職金制度を使える
法人で不動産賃貸を行う最大のメリットの1つが 退職金の活用。
- 退職金は法人側で「損金(経費)」
- 受け取る個人側は「優遇税制」
- 退職所得控除 → 実質的に税率がゼロになることも
長期スパンで考えると、非常に効果の高い節税策になります。
法人化する方法は複数ある
“不動産を法人に移す”といっても、やり方によって税務インパクトは大きく異なります。
●① 現物出資で法人に移転
不動産そのものを資本金として法人に出資する方法。
メリット:登記費用が少ない
デメリット:譲渡所得税が発生する場合あり
●② 法人への売却(オーナーが買主のイメージ)
個人 → 法人へ売買契約を結ぶ方法。
メリット:手続きがシンプル
デメリット:売却益に課税される/消費税も考慮必要
●③ 賃貸借契約に切り替え、所有は個人のまま(管理会社方式)
不動産の所有は個人のまま、管理会社として法人を使う方法。
メリット:税負担が軽く、柔軟
デメリット:節税効果は限定的
法人化の節税効果を理解するための前提
法人化の判断は税金だけでなく、次の4つの視点で行うことが重要です。
●① 利益の金額
一般的に、年間利益 700万円〜1,000万円以上 で法人化の効果が出やすくなります。
●② 将来の買い増し計画
融資戦略で法人化の有利・不利が変わります。
- 法人の方が融資枠が広がる
- 逆に、法人では不動産賃貸業への融資が厳しくなる金融機関もある
●③ 相続税対策
法人化をすると株式で相続するため、
不動産よりも評価が低くなる場合がある
長期的な相続対策として非常に有効。
●④ 社会保険の最適化
法人化した場合、役員報酬に応じて社会保険料が発生します。
これをどう設計するかで、節税効果の大小が変わります。
法人化による税負担の変化を数値で比較する
ここからは、最も気になる「税務シミュレーション」を使って具体的に比較していきます。
シミュレーション前提
以下のモデルケースを設定します。
ケースA:個人事業のまま継続
ケースB:法人化して役員報酬を最適化
前提条件
- 不動産賃貸業の収入:1,800万円
- 経費(減価償却含む):800万円
- 利益:1,000万円
- 家族への給与なし
- 不動産はすべて所有済み
次の章で個人 vs 法人でどれくらい税が変わるかを試算します。
個人と法人でどれくらい税負担が変わるのか(シミュレーション)
前半で設定したモデルケースをもとに、個人事業として継続する場合と、法人へ移行した場合の税負担を比較します。
■ケースA:個人事業のままの税負担
利益:1,000万円
所得税・住民税の目安:
- 所得税:約330万円
- 住民税:約100万円
おおむね 430万円前後 が税負担です。
これは「超過累進課税」のため、所得が増えるほど税率が急上昇することが原因です。
■ケースB:法人化し、役員報酬を最適化した場合
法人利益:1,000万円とし、役員報酬を600万円に設定します。
●オーナー個人の税金
600万円の給与:
所得税・住民税 → 約110万円前後
●法人側の税金
法人利益:400万円
法人税・住民税合計 → 約90万円前後
▶合計税額:200万円前後
個人事業の430万円に比べ、
約230万円の節税効果 が出ています。
税率に換算すると
- 個人:税率43%前後
- 法人化:税率20%前後
法人化の税率は安定しており、所得が増えても跳ね上がりません。
社会保険の負担を考慮したシミュレーション
法人化すると社会保険に加入する必要があり、
- 健康保険
- 厚生年金
の負担が発生します。
■役員報酬600万円の社会保険料
個人負担・法人負担合計 → 約150万円前後
社会保険料は確かに負担ですが、
- 経費になる
- 将来の年金が増える
- 役員報酬の調整で負担をコントロールできる
という点を踏まえると、長期的にはメリットも大きいです。
■税+社会保険で比較した総負担
- 個人事業:税430万円 + 社保(国保・国年 約70万円)= 500万円前後
- 法人化:税200万円 + 社保150万円 = 350万円前後
▶ 年間150万円の負担減
▶ 長期で考えると10年で1,500万円の最適化
法人化のインパクトが非常に大きいことが分かります。
不動産の法人化で避けたい4つの落とし穴
法人化はメリットばかり取り上げられがちですが、注意しないと逆に損をします。
●① 不動産を法人に移す時の“移転税”が高い
現物出資や売却移転では以下の税金がかかる可能性があります。
- 譲渡所得税
- 住民税
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 消費税(課税物件の場合)
初動で税金が発生すると、節税メリットが吹き飛ぶことも。
●② 金融機関の融資が法人になると厳しくなることがある
法人の信用力は設立時は弱いため、
金融機関によっては、
- 金利が上がる
- 融資期間が短くなる
- 担保や保証が厳しくなる
といったケースもあります。
●③ 社会保険料が増えすぎる設計にしてしまう
役員報酬を高く設定しすぎると、社会保険料が跳ね上がります。
最適化が必要。
●④ 小規模企業共済やiDeCoの使い方が変わる
法人化すると、個人の所得ベースの制度が変わります。
- 小規模企業共済 → 法人化後も加入可能
- iDeCo → 給与所得者として掛金上限が変動
制度も含めた総合設計が必要です。
不動産法人化で成功しやすいパターン
税理士として多数の事例を見てきましたが、法人化が「成功」になりやすいのは次のようなケースです。
●年間利益が700〜1,500万円のゾーン
税率差が大きくなるため、法人化のメリットが顕著。
●物件を増やしていきたい人
法人だと融資枠が広がるケースが多く、
買い増し戦略に相性が良い。
●家族へ給与を出したい人
法人化なら、家族への役員給与・従業員給与を経費にできる。
所得分散がしやすい。
●長期で事業を続ける人
法人の節税効果は「複利」的に効きます。
特に、退職金の活用は非常に強力。
不動産を法人化する実務ステップ
初心者でも迷わないように、行動手順をチェックリストにまとめます。
ステップ1:個人事業の利益と税額を試算
法人化判断の基礎となる数字です。
- 家賃収入
- 経費
- 減価償却費
- 利益
- 所得税・住民税
ステップ2:法人化の目的を明確にする
節税・融資・相続対策など、目的によって最適解が変わります。
ステップ3:法人を設立
不動産業を行う法人を登記します。
ステップ4:役員報酬を設計
社会保険料+所得税+法人税のトータルで最適化します。
ステップ5:不動産を法人に移す方法を選択
- 現物出資
- 売買
- 所有は個人のまま管理会社化
税負担・登記費用・金融機関の方針を踏まえて選択します。
ステップ6:法人での経理・申告体制を整える
freee会計・税理士との契約など、実務を整備します。
ステップ7:長期的な節税計画を作成
- 退職金
- 役員報酬の増減
- 共済・保険
- 相続税対策
を織り込みます。

