中小企業で注目される長期平準定期保険
中小企業や個人事業主にとって、生命保険は「保障」だけでなく「経営の安定」「節税」「退職金準備」といった多面的な役割を果たします。その中でも「長期平準定期保険」は、一定の時期までは大きな保障を確保でき、同時に資産形成や節税にもつながるため、多くの経営者に注目されてきました。
しかし、税制改正の影響で従来の節税効果は制限されており、安易に加入すると思わぬリスクを抱えることになります。正しく理解し、自社に合った活用方法を選ぶことが欠かせません。
長期平準定期保険を巡る課題
一見するとメリットが大きいように見える長期平準定期保険ですが、経営者が直面する課題は少なくありません。
税務上の取り扱いが複雑
長期平準定期保険は、契約初期と後期で解約返戻金の水準が変動します。そのため、保険料の損金算入や解約時の益金計上が複雑になり、節税を狙って加入しても逆に税負担が増えることがあります。
資金繰りへの影響
高額の保険料を長期にわたり支払い続けるため、キャッシュフローを圧迫するリスクがあります。特に収益が安定していない企業が安易に加入すると、経営資金不足を招きかねません。
税制改正リスク
過去には長期平準定期保険の損金算入範囲が縮小される税制改正がありました。今後も税制の動向によっては、加入時に想定していた節税効果が得られなくなる可能性があります。
長期平準定期保険の位置づけと結論
結論から言えば、長期平準定期保険は 「節税目的だけで加入すべき商品ではない」 ということです。
確かに一部のケースでは経営に役立ちますが、本質は「経営者に長期間の死亡保障を提供すること」にあります。加えて、退職金準備や事業承継の資金確保といった目的を持つ場合にのみ、有効な活用が可能です。
つまり、
- 保障(経営者が亡くなったときの備え)
- 資金準備(退職金・事業承継資金)
- 節税効果(税法上の範囲でのメリット)
これらをバランスよく考慮して導入することが大切です。
長期平準定期保険の仕組みを理解する
一般的な定期保険との違い
通常の定期保険は、一定期間だけ死亡保障が続き、解約返戻金はほとんどないのが特徴です。
一方、長期平準定期保険は「保障」と「貯蓄性」を併せ持っています。契約初期は返戻金が低いものの、一定期間を経ると解約返戻率が上がり、その後再び下がっていくという特徴的な返戻カーブを描きます。
「長期平準」とは何か
「長期平準」とは、保障と解約返戻金の水準を長期的に均す仕組みを意味します。
- 契約から一定期間までは大きな保障を得られる
- その後は返戻金を活用して退職金などに充当できる
- ただし最終的に解約返戻金は逓減していく
この構造が、経営者のライフサイクルに合わせて設計されていることがポイントです。
税務上の取り扱いと節税の考え方
長期平準定期保険は、過去に「高額な保険料を損金算入しつつ、解約時には多額の返戻金を得られる」として節税商品として広く利用されてきました。
しかし、現在は税制改正によりその扱いが制限されています。
現行の税務ルール
- 保険期間が10年以上かつ被保険者年齢が高い場合など、一定の要件を満たすと「一部損金算入」として認められる
- 保険料の全額を損金にできるわけではなく、「定率法による按分」が必要
- 解約返戻金を受け取ると、その分は益金算入され、課税対象となる
節税の実態
従来の「保険料を経費にして節税、解約で現金を受け取る」という単純なモデルは成り立ちにくくなっています。
そのため、現在では 「節税+資金準備」 の二重の目的で利用するのが主流です。
経営における活用の理由
1. 経営者の死亡保障を長期間確保できる
中小企業は経営者に依存するケースが多く、経営者が万一亡くなれば会社存続そのものが危機に直面します。長期平準定期保険は、比較的高額な保障を長期的に確保できる点で有効です。
2. 退職金・事業承継資金の準備になる
契約中盤以降に解約返戻率が上昇するため、経営者の退職時に解約して退職金の原資とする活用方法があります。また、事業承継のための資金準備としても利用可能です。
3. 一定の税効果が期待できる
全額損金算入はできなくても、一部を損金算入できることで税負担を平準化できます。法人税の支払いを分散する効果が得られる点は中小企業にとってメリットです。
他の保険との比較から見る特徴
長期平準定期保険の位置づけを明確にするため、他の代表的な保険と比較してみましょう。
| 保険の種類 | 保障の範囲 | 解約返戻金 | 税務上の扱い | 主な利用目的 |
|---|---|---|---|---|
| 定期保険 | 一定期間のみ | ほぼなし | 全額損金算入可(期間中) | 経営者の死亡保障 |
| 終身保険 | 一生涯 | 高い | 損金算入不可(資産計上) | 相続対策・資産形成 |
| 長期平準定期保険 | 長期間 | 中盤で高くなる | 一部損金算入 | 死亡保障+退職金準備 |
| 養老保険 | 一定期間 | 高い(満期金あり) | 損金算入制限あり | 退職金準備・貯蓄 |
👉 この比較から、長期平準定期保険は「定期保険と終身保険の中間的な商品」であることがわかります。
長期平準定期保険の具体的な活用事例
事例1:経営者の退職金準備として活用
ある中小企業の社長(55歳)が60歳での退職を予定し、長期平準定期保険(保険期間20年、払込期間15年、保険金額1億円)に加入しました。
- 年間保険料:500万円
- 保険料支払総額:7,500万円
- 15年目時点の解約返戻金:6,000万円(返戻率80%)
この返戻金を退職金の一部として充当し、残りを会社の内部留保と組み合わせて支給。
結果として、
- 死亡保障:経営者が万一の場合に会社が1億円を受け取り、事業継続資金に充当
- 退職金資金:解約で6,000万円を確保
- 税務効果:一部を損金算入し、税負担を平準化
このように「保障+資金準備+税効果」の3つをバランス良く活用できるのが特徴です。
事例2:事業承継資金の準備
オーナー経営者が子へ事業を承継する場合、株式の評価額に応じて相続税が発生します。
長期平準定期保険で数千万円の保険金を確保し、遺族が受け取った資金を相続税の納税や株式買い取り資金に充てる方法があります。
この場合、
- 被相続人死亡時:保険金=納税資金
- 法人が契約者なら:法人に保険金が入り、株式を買い取るための資金として利用可能
👉 不動産や株式など「換金しづらい資産」を持つ経営者にとって、現金流動性を高める役割を果たします。
節税効果の数値イメージ
以下はシンプルなシミュレーション例です。
- 保険料:年間300万円(うち150万円を損金算入、150万円を資産計上)
- 契約期間:20年
- 解約返戻金:10年目で2,000万円、15年目で3,500万円
税効果のイメージ:
- 毎年150万円分が損金 → 法人税率30%とすると、年間45万円の税負担軽減
- 解約時に返戻金3,500万円を益金算入 → その年は課税対象に
👉 節税は「繰り延べ効果」にとどまり、解約時には税負担が発生する点が重要です。
長期平準定期保険に潜むリスク
1. 税制改正リスク
過去には損金算入範囲が大幅に縮小された事例があります。今後も制度変更により、当初の設計通りのメリットが得られない可能性があります。
2. キャッシュフロー圧迫
高額な保険料を支払い続けるため、収益が不安定な企業では資金繰り悪化の要因になります。
3. 解約タイミングの難しさ
返戻率のピークを逃して早期解約すると、受け取れる返戻金が大幅に減少。逆に遅らせすぎると返戻率が下がるため、適切なタイミング判断が不可欠です。
4. 節税効果の誤解
「保険料=節税」という誤解で加入すると、解約時の課税で逆に負担が増える可能性があります。あくまで税負担の繰り延べ効果であることを認識する必要があります。
活用が向いている企業と向いていない企業
向いているケース
- 安定的に利益が出ている中小企業
- 経営者退職金や事業承継資金を計画的に準備したい企業
- 長期的な資金計画が可能な企業
向いていないケース
- 利益が安定せず、毎年のキャッシュフローが不安定な企業
- 短期的な節税だけを目的とする企業
- 解約タイミングを戦略的に計画できない企業
長期平準定期保険を検討する際のステップ
長期平準定期保険は仕組みが複雑で、経営に与える影響も大きいため、導入前に以下の流れで検討することをおすすめします。
ステップ1:会社の財務状況を把握する
- 現在の利益水準
- キャッシュフローの安定性
- 将来の資金需要(退職金・承継資金など)
👉 会社の「お金の流れ」を数値化することが最初の一歩です。
ステップ2:必要な保障額と資金準備額を試算する
- 経営者死亡時に必要な資金はいくらか
- 退職金や承継資金にどの程度必要か
- 他の金融資産で補える部分はあるか
👉 保険でカバーすべき金額を明確にすることで、無駄な保険料を払わずに済みます。
ステップ3:複数のシミュレーションを比較する
- 保険料の支払い総額
- 解約返戻金の推移
- 税務上の損金算入割合と課税影響
👉 同じ「長期平準定期保険」でも、保険会社や設計によって結果が大きく異なります。
ステップ4:税理士や専門家に相談する
保険は税務と直結するため、必ず専門家と一緒に検討しましょう。特に以下の観点を確認することが重要です。
- 税制上のメリット・デメリット
- 解約時の課税リスク
- 他の保険や金融商品との比較
検討時のチェックリスト
- 自社の利益水準とキャッシュフローを確認したか
- 必要な保障額・資金準備額を数値化したか
- 解約返戻金のピーク時期を把握したか
- 税務上の繰り延べ効果と解約課税を理解したか
- 複数社のシミュレーションを比較したか
- 専門家に相談し、最終判断を下したか
👉 このチェックリストを満たしていれば、リスクを最小限に抑えて長期平準定期保険を導入できます。
まとめ
長期平準定期保険は、かつて「節税保険」として注目された商品ですが、現在は税制改正の影響で単純な節税効果は限定的になっています。
しかし、適切に設計すれば 「死亡保障」「退職金準備」「資金繰りの安定化」 といった経営に役立つ効果を発揮できます。
- メリット
- 長期にわたる経営者保障
- 退職金・承継資金の準備
- 税負担の平準化
- デメリット
- 高額な保険料による資金繰り圧迫
- 解約タイミングの難しさ
- 税制改正リスク
結論として、長期平準定期保険は「節税目的だけで加入するものではなく、経営計画と連動させて戦略的に活用する商品」です。
自社の将来像を見据え、専門家のサポートを受けながら判断することが成功の鍵となります。

