経営者が抱える資金繰りの悩み
個人事業主や中小企業の経営者にとって、最も頭を悩ませるテーマのひとつが「資金繰り」です。
売上が上がっていても入金と支払いのタイミングがずれることで、資金が一時的に不足することは珍しくありません。
- 売掛金の回収が遅れている
- 納税や賞与などの大口支出が迫っている
- 設備投資や新規事業のために一時的な資金が必要
このような状況で銀行融資を受けようとしても、審査に時間がかかったり、必ずしも希望通りの金額を借りられるとは限りません。
保険契約が隠れた資金源になる
実は、経営者が加入している生命保険や法人保険の中には、「解約返戻金(かいやくへんれいきん)」 という資金が積み立てられているケースがあります。
これは保険を解約した際に戻ってくるお金のことで、長期契約の定期保険や終身保険、養老保険などに多く見られます。
この解約返戻金は、契約を解約せずとも「契約者貸付制度」を利用して借入できることもあり、急な資金繰り対策として非常に有効です。
解約返戻金を使わずにいると起こり得る問題
多くの経営者は、保険を「節税対策」や「将来の退職金準備」として契約しているため、解約返戻金の存在を把握していても使わずに放置していることがあります。
しかし、資金繰りに困っているのに保険の返戻金を使わないのは、まさに「宝の持ち腐れ」です。
- 不要な借入で利息を払い続ける
- 支払いが遅れて取引先からの信用を失う
- 税金や社会保険料の滞納でペナルティを受ける
これらを防ぐためにも、保険の解約返戻金を「緊急時の資金調達手段」として正しく理解し、活用できるようにしておくことが重要です。
解約返戻金を活用する際の注意点
ただし、解約返戻金を活用するにはリスクも伴います。
- 解約すると保険契約が消滅し、保障がなくなる
- 返戻率(戻ってくる割合)が低い時期に解約すると損失になる
- 受け取った返戻金は課税対象となり、税務処理が必要
👉 したがって、単に「資金が足りないから解約する」ではなく、いつ・どのように使うのが最適か を見極める必要があります。
資金繰りにおける保険の位置づけ
銀行融資や売掛債権回収、リース契約などと並び、保険の解約返戻金は「自己資金を引き出す手段」として有効です。
特に、他の資金調達が難しいときや、緊急で現金が必要なときに役立ちます。
つまり、解約返戻金は「経営の安全弁」として考えておくべき資産なのです。
解約返戻金を資金繰りに活用するメリット
保険の解約返戻金を資金繰りに活用することには、大きく3つのメリットがあります。
1. 即時性がある
解約返戻金や契約者貸付制度を利用すれば、最短で数日以内に現金を手にできます。
銀行融資のように審査が長引くことがなく、急な資金需要に対応できるのが強みです。
2. 自己資金であるため信用に影響しない
返戻金は「自分で積み立てた資金」を取り崩すイメージのため、外部からの借入に比べて信用に与える影響が小さいです。
金融機関の債務状況にも影響しにくく、追加融資の足かせになりにくい特徴があります。
3. 契約を解約しなくても利用できる
「契約者貸付制度」を利用すれば、解約せずに保険を続けながら資金を調達できます。
返済すれば保障も維持されるため、将来の退職金準備や保障を守りながら資金繰りができるのは大きなメリットです。
解約返戻金を使うデメリットと注意点
一方で、安易に使うとリスクもあります。
- 保障がなくなる:解約すれば死亡保障などが消滅する
- 返戻率が低い時期は損:加入後数年は解約しても戻りが少ない
- 税金が発生する:返戻金は益金計上や所得税課税対象となる
- 契約者貸付にも利息がつく:返済しないと返戻金や保障額が減少する
👉 つまり、解約返戻金は「最後の手段」ではなく、「一時的なキャッシュフロー改善策」として計画的に使うべきなのです。
解約返戻金を活用する3つの方法
1. 保険を解約して現金化
最もシンプルな方法は、保険を解約して返戻金を受け取ることです。
ただし、解約すると保障がなくなるため、代替の保障(医療保険や別の死亡保障)があるかを確認しましょう。
2. 契約者貸付制度を利用
保険会社から返戻金を担保に借入をする方法です。
返済すれば保障を維持できるため、資金繰りが一時的な場合に最も有効です。
3. 部分解約・リストラ契約
保険会社によっては、保険の一部を解約することで返戻金を得られる制度があります。
保障を残しつつ資金を取り出せるので、経営に合わせて柔軟に活用できます。
資金繰りにおける解約返戻金の位置づけ
- 銀行融資や補助金に比べて「即効性」がある
- 自己資金を取り戻す感覚なので「信用に影響しにくい」
- ただし「保障や将来設計を損なうリスク」がある
👉 したがって、解約返戻金は「短期的なキャッシュフロー改善策」として利用しつつ、長期的には再び保険で積立を行い、次の備えを整えるのが賢明です。
解約返戻金を活用した資金繰りの具体例
ここでは、実際の中小企業や個人事業主が直面するケースをもとに、解約返戻金をどのように活用できるかを紹介します。
ケース1:中小企業の決算期における資金需要
- 状況
製造業を営む中小企業。決算期に賞与支給と納税が重なり、運転資金が一時的に不足。
銀行融資を申し込んだが、審査に時間がかかり資金ショートのリスクがある。 - 解約返戻金の活用
法人契約の長期平準定期保険を利用し、契約者貸付制度で1,000万円を調達。
数か月後、売掛金回収で資金が戻ったタイミングで返済。 - 効果
短期間で資金をつなぐことができ、従業員への賞与支給や納税を滞りなく実施。
取引先や社員の信用を失うことなく資金繰りを乗り切った。
ケース2:不動産オーナーの相続税対策と資金繰り
- 状況
賃貸マンションを複数所有するオーナー。相続税対策で加入していた終身保険に解約返戻金が積み立てられていた。
一方で、大規模修繕費用の支払いが迫り、現金が不足。 - 解約返戻金の活用
終身保険の一部を解約し、解約返戻金を修繕費用に充当。 - 効果
不動産を売却することなく修繕を実施でき、資産価値を維持。
相続税対策のための保険も一部残しており、長期の備えも確保。
ケース3:個人事業主の急な医療費支出
- 状況
フリーランスのデザイナー。病気で入院し、予想以上の医療費が発生。
健康保険の高額療養費制度を利用するまでのつなぎ資金が必要。 - 解約返戻金の活用
個人契約の養老保険の契約者貸付制度を利用し、200万円を調達。
後日、保険金や貯蓄から返済。 - 効果
金融機関に借入を依頼せずに迅速に資金を確保。
医療費支払いを滞らせず、信用や生活への影響を回避できた。
ケース4:事業承継を見据えた経営者
- 状況
中小企業の経営者が退職金準備のために逓増定期保険に加入。
しかし、後継者への承継準備と並行して一時的な運転資金が必要になった。 - 解約返戻金の活用
返戻金のピーク期を把握し、一部を解約して資金を確保。
同時に後継者と協議し、再度積立を計画。 - 効果
事業承継資金を確保しつつ、一時的な資金不足も解消。
計画的な返戻金活用が、長期戦略の一部として機能した。
ケース別まとめ表
| ケース | 主な課題 | 活用方法 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 中小企業(決算期) | 賞与・納税で資金不足 | 契約者貸付で短期借入 | 信用を守り資金繰り改善 |
| 不動産オーナー | 修繕費用の不足 | 保険の一部解約 | 資産を守りつつ資金確保 |
| 個人事業主 | 医療費の急な支出 | 養老保険の貸付利用 | 即時資金調達で生活安定 |
| 経営者(事業承継) | 承継準備と資金不足 | 解約+再積立 | 承継と資金繰りの両立 |
成功と失敗の分かれ目
- 成功例:資金繰りが一時的であると判断し、計画的に貸付や部分解約を利用したケース。
- 失敗例:返戻率が低い時期に安易に解約して損失を出したり、保障が必要な時に契約を消してしまったケース。
👉 成功のカギは「返戻率と資金ニーズのタイミングを見極めること」にあります。
解約返戻金を資金繰りに活用する実践手順
解約返戻金を活用する際には、計画的な判断が欠かせません。以下のステップで進めると安心です。
ステップ1:契約内容を確認する
- 解約返戻金の有無
- 現在の返戻率(どの時点で解約するといくら戻るか)
- 契約者貸付制度の利用可否と貸付限度額
- 解約や貸付による保障の変化
👉 まずは「いくら利用できるのか」「保障にどの程度影響するのか」を把握することが第一歩です。
ステップ2:資金ニーズの期間を明確にする
- 一時的な不足(数か月〜1年以内) → 契約者貸付制度を活用
- 長期的な不足(返済の見込みが薄い) → 部分解約や解約を検討
👉 「短期なら貸付、長期なら解約」という判断基準を持つことで、無駄なリスクを避けられます。
ステップ3:税務上の取り扱いを理解する
- 解約返戻金を受け取った場合:法人なら益金算入、個人なら一時所得課税
- 契約者貸付を利用した場合:返戻金の範囲内で借入なので課税対象外(返済しないと将来の解約返戻金が減少)
👉 税務上の影響を理解しないと、思わぬ追徴課税につながることがあります。
ステップ4:資金繰り計画に組み込む
- 銀行融資や補助金と併せて比較検討
- 返済計画をシミュレーション
- 将来の保障設計とバランスを取る
👉 解約返戻金は「一度きりの使い道」ではなく、経営の安全弁として資金繰り計画に組み込むことが重要です。
解約返戻金活用チェックリスト
- 契約内容と返戻率を把握しているか
- 契約者貸付制度の利用可否を確認したか
- 資金不足が短期か長期かを区別したか
- 税務上の取り扱いを理解しているか
- 解約後に必要な保障を別途確保しているか
- 専門家(税理士・FP)に相談したか
👉 このチェックリストを活用すれば、資金繰りに困ったときも冷静に判断できます。
まとめ
- 解約返戻金は「隠れた資金源」として資金繰りに活用できる
- 契約者貸付を利用すれば保障を維持したまま短期資金を調達可能
- 解約や部分解約は長期的な資金不足に対応できるが、保障や税務リスクに注意
- 成功のポイントは「返戻率」「資金ニーズの期間」「税務処理」の3つを見極めること
- 定期的に契約内容を確認し、資金繰り戦略の一部として計画的に使うことが重要
解約返戻金を正しく活用できれば、経営者にとって強力なキャッシュフロー改善の武器となります。

