所得補償保険は経費になる?確定申告での正しい扱い方と注意点

所得補償保険が経費になるかを解説する記事用アイキャッチ画像。計算機を持つ人物と確定申告書、保険の書類を描いたイラスト。
目次

所得補償保険に注目が集まる背景

個人事業主やフリーランス、中小企業の経営者にとって、**「働けなくなるリスク」**は常につきまといます。
病気やケガで長期間仕事を休むことになれば、売上が減り、生活や事業資金に直結します。

このリスクに備えるのが 「所得補償保険」 です。
一定期間働けなくなった際に、契約で定めた金額が保険金として支払われるため、生活費や事業継続資金の確保に役立ちます。

ただし、ここで疑問となるのが 「所得補償保険の保険料は経費として計上できるのか?」 という点です。
確定申告の処理を誤れば、思わぬ税務リスクを抱えることになりかねません。


所得補償保険と税務処理の悩ましい関係

税務上の判断基準はシンプルでありながら、実務では迷いやすいのが「所得補償保険の経費算入」です。

  • 経費にできる場合:事業の継続に直接関係する支出と認められるとき
  • 経費にできない場合:個人の生活保障にあたると判断されるとき

この線引きが難しく、経営者やフリーランスからは次のような声がよく聞かれます。

  • 「保険料を全部経費にしてよいのか?」
  • 「個人の生活保障部分は経費にならないと聞いたが、どこまで区分すればよいのか?」
  • 「支払った保険料を経費にしなかった場合、確定申告で控除はできるのか?」

こうした疑問を放置して曖昧な処理をしてしまうと、税務調査で否認されるリスクがあります。


誤った処理をするとどうなるか

所得補償保険を誤って処理した場合、以下のような問題が起こり得ます。

  • 経費算入が否認され、追徴課税を受ける
  • 個人利用分を法人経費に計上してしまい「役員賞与扱い」となる
  • 本来利用できた控除制度を見逃してしまう

つまり、「正しく経費になるかどうか」を理解していないと損をする可能性があるのです。


確定申告に直結する重要テーマ

フリーランスや中小企業経営者にとって、確定申告での保険料処理は税負担に直結します。
とくに所得補償保険は、事業に関連する部分と生活保障に関連する部分が混在するため、最も判断に迷いやすい保険のひとつです。

所得補償保険は経費になるのか?

結論から言うと、所得補償保険の保険料が経費になるかどうかは「契約の目的」と「誰を保障対象としているか」によって異なります。

  • 経費になるケース
     事業に関連するリスクに備えるための契約であり、法人や個人事業の収入減少を補填する目的が明確な場合。
  • 経費にならないケース
     個人の生活費や家族の生活保障を目的とした契約。事業とは無関係な「個人的な保険」とみなされる場合。

つまり、事業に必要かどうか=経費算入のカギ です。


確定申告での取り扱いの基本ルール

フリーランスや経営者が確定申告をする際、所得補償保険料は次のように分類して考えます。

個人事業主の場合

  • 経費算入できるケース
     保険金の受取人が事業主本人であり、事業の収入補填が目的とされているとき。
     👉 例:病気で働けない期間の売上減少をカバーする契約
  • 経費算入できないケース
     生活費の補償や家族の生活保障が目的の契約。
     👉 例:収入が途絶えたときに生活費を補償する契約(事業との関連性が薄い)

法人の場合

  • 法人が契約者・受取人である場合
     法人の収益補填を目的とする契約であれば、損金算入が可能。
     ただし、役員個人の生活保障を目的とした契約は「役員賞与」として扱われ、損金算入が否認される。
  • 役員が契約者・受取人である場合
     法人の経費にはできない(個人が負担すべき費用)。

税務上の判断基準

税務署が注目するポイントは次の3つです。

  1. 保険金の受取人
     法人か、事業主本人か、家族か。
  2. 契約目的
     事業収入の補填か、個人生活の保障か。
  3. 支出の合理性
     事業に必要な支出として説明できるか。

👉 これらの要素が「事業と生活のどちらに関連するか」を分ける基準になります。


よくある誤解と注意点

  • 「保険料を払っているから全部経費にできる」 → ❌
  • 「法人契約なら無条件で損金算入できる」 → ❌
  • 「生活費補償でも経費にできる」 → ❌

いずれも誤りであり、契約の中身によって経費算入の可否は変わることを理解する必要があります。

ケース別で見る所得補償保険の扱い方

所得補償保険は「誰が契約者か」「受取人は誰か」「補償内容は何か」で経費算入の可否が変わります。ここでは、実際のシナリオごとに解説します。


ケース1:個人事業主が自身の収入補填目的で契約

  • 契約者:個人事業主本人
  • 受取人:本人
  • 補償内容:病気やケガで働けない期間の売上減少を補填

👉 この場合、事業収入の補填が目的であるため、支払った保険料は必要経費として認められるケースが多いです。

ただし、実際に受け取った保険金は「事業所得の収入」として計上する必要があります。

  • 仕訳イメージ(保険料支払い時)
     借方:保険料 10,000円 / 貸方:普通預金 10,000円
  • 仕訳イメージ(保険金受取時)
     借方:普通預金 300,000円 / 貸方:雑収入(または事業収入) 300,000円

ケース2:個人事業主が生活費保障を目的に契約

  • 契約者:個人事業主本人
  • 受取人:本人または家族
  • 補償内容:生活費の補填(家賃・食費など)

👉 この場合は事業との関連性がないため経費にならないと判断されます。
支払った保険料は経費にできず、個人の「生活費」として処理されます。


ケース3:法人が契約し、受取人を法人に設定

  • 契約者:法人
  • 受取人:法人
  • 補償内容:代表者や従業員が働けない場合の売上補填や人件費補填

👉 この場合、法人の事業継続に直結するため、保険料は損金算入可能です。

  • 仕訳イメージ(保険料支払い時)
     借方:保険料 100,000円 / 貸方:普通預金 100,000円
  • 仕訳イメージ(保険金受取時)
     借方:普通預金 1,000,000円 / 貸方:雑収入 1,000,000円

👉 ただし、役員個人の生活費補償を目的にすると「役員賞与」と見なされ損金不算入になるため注意が必要です。


ケース4:法人が契約し、受取人を役員個人に設定

  • 契約者:法人
  • 受取人:役員本人
  • 補償内容:経営者個人の生活費補償

👉 この場合は、法人の経費ではなく「役員への経済的利益」と見なされます。
保険料は経費算入できず、役員賞与として課税対象になります。


ケース別まとめ表

ケース契約者受取人補償内容経費算入可否
1. 個人事業主(事業収入補填)個人事業主本人売上減少補填経費算入〇
2. 個人事業主(生活費補填)個人事業主本人・家族生活費補填経費算入✕
3. 法人(事業継続補填)法人法人売上・人件費補填損金算入〇
4. 法人(役員生活保障)法人役員生活費補填損金算入✕(役員賞与扱い)

税務調査で指摘されやすいポイント

  • 「契約目的が不明確」なまま経費にしている
  • 実際には生活保障なのに「事業関連」として処理している
  • 受取人と契約目的が一致していない

👉 説明責任を果たせるように、契約内容を整理し、証憑(契約書・設計書)を保管しておくことが重要です。

所得補償保険の確定申告での処理手順

所得補償保険を正しく処理するためには、以下の流れに沿って対応するのが望ましいです。

ステップ1:契約内容を確認する

  • 契約者は誰か(個人事業主本人/法人)
  • 保険金受取人は誰か(本人/法人/家族)
  • 補償内容は何か(事業収入補填か生活費補填か)

👉 この3点を確認すれば「経費になるかどうか」がおおよそ判断できます。


ステップ2:経費に計上できるか仕分けを行う

  • 経費算入可能な場合
     → 保険料を「保険料」「福利厚生費」などの勘定科目で計上
  • 経費算入できない場合
     → 個人生活費として処理し、経費計上は行わない

ステップ3:保険金を受け取った場合の処理

  • 事業収入の補填目的の場合 → 事業所得の収入に計上
  • 生活費補填目的の場合 → 原則として事業収入ではなく個人所得扱い

👉 保険料を経費にしていた場合、受取金を収入に計上しないと「二重で得をしている」と見なされ否認されます。


ステップ4:証拠資料を残す

  • 保険契約書
  • 保険設計書・見積書
  • 取締役会議事録(法人の場合)
  • 税理士との相談記録

👉 税務調査では「なぜ経費にしたのか」を説明できることが大切です。


所得補償保険を見直すタイミング

保険は一度加入したら終わりではありません。経営状況や税制改正に応じて定期的に見直しましょう。

  • 借入金や収入規模が変わったとき
  • 新たに従業員を雇用したとき
  • 事業承継や法人化を検討するとき
  • 税制改正や保険商品のルール変更があったとき

👉 年に一度、確定申告や決算のタイミングで必ず見直しを行うのがおすすめです。


行動に移すためのチェックリスト

  • 契約内容と受取人は整理できているか?
  • 経費に計上している理由を説明できるか?
  • 保険料と保険金の処理は整合しているか?
  • 証拠書類は保存してあるか?
  • 税理士と定期的に相談しているか?

👉 このチェックリストを活用すれば、確定申告での不安を減らし、税務調査でも安心できる体制を作れます。


まとめ

  • 所得補償保険は 事業収入の補填目的なら経費になるが、生活保障目的なら経費にならない
  • 確定申告では契約者・受取人・契約目的を基準に処理を分ける
  • 会計処理と証拠資料の整備が、税務調査で否認されないためのカギ
  • 年に一度の見直しと専門家への相談で、安心して保険を活用できる

所得補償保険は「節税」ではなく「リスクマネジメント」の一環として、正しく確定申告に反映させることが重要です。

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