法人化した不動産オーナーが悩みやすいお金の受け取り方
不動産投資を法人化すると、個人とは異なり「役員報酬」と「配当」という2つの方法で利益を受け取れるようになります。法人化を検討している人はもちろん、すでに法人を運営している不動産オーナーの中でも、
- 役員報酬はいくらにすれば良い?
- 配当は出した方が節税になる?
- 組み合わせるとどのくらい手取りが変わる?
といった疑問が非常に多く見られます。
役員報酬と配当は、どちらも「自分のお金として受け取る方法」ですが、税金や社会保険の扱いがまったく異なります。そのため、バランスを誤ると 手取りが何十万円も変わる ことさえ珍しくありません。不動産オーナーとして利益を最大化したい場合、この2つの仕組みを理解し、最適な組み合わせ方を知ることが重要です。
この記事では、不動産オーナー向けに役員報酬と配当の特徴、違い、適切な組み合わせ方を、初心者でも理解できるよう丁寧に解説します。
なぜ役員報酬と配当の最適化が必要なのか
役員報酬と配当は、どちらも「お金を受け取る方法」ですが、以下のような大きな違いがあります。
- 税率が異なる
- 社会保険料の有無が違う
- 会社の経費になるかどうかが違う
- 設定ルール(調整のしやすさ)が異なる
この違いを知らずに役員報酬を「なんとなく」で決めてしまうと、
- 社会保険料が高すぎて手取りが減る
- 配当を出しすぎて法人税が増える
- 役員報酬の変更が1年間できず資金繰りが悪化する
といった問題が起きやすくなります。
特に不動産オーナーの場合、収入が「家賃」という安定収入である一方、修繕費やリフォームなど突発的な支出も発生するため、資金管理が重要です。役員報酬と配当の仕組みを理解せずに設定すると、節税失敗や資金不足につながるリスクがあります。
不動産オーナーに適した利益受け取り方の結論
最適解は法人の収益規模や家族構成により異なりますが、一般的な不動産オーナーにとっては次の方針が最も効率的です。
【結論】役員報酬を基本にしつつ、配当は補助的に使う
理由は以下の通りです。
- 役員報酬は法人の経費になり法人税を下げられる
- 配当は社会保険料がかからないが、法人税負担が重くなる
- 役員報酬には給与所得控除(節税メリット)がある
- 配当は分離課税で税率が一定だが控除がない
- 社会保険加入の要件から役員報酬ゼロは推奨できない
つまり、「役員報酬と配当のどちらが有利か」という一択の話ではなく、状況に応じて最適なバランスを決める必要がある のです。
不動産オーナーの場合、次のようなルールが実務上もっとも有効です。
役員報酬と配当を組み合わせるべき理由
ここでは、役員報酬と配当を組み合わせるメリットを、税負担・社会保険・法人税の観点から解説します。
税率の構造を理解することが重要
役員報酬と配当には次のような違いがあります。
| 項目 | 役員報酬(給与) | 配当 |
|---|---|---|
| 会社の経費になる? | なる | ならない |
| 社会保険料 | かかる | かからない |
| 税率 | 累進課税 | 一律(分離課税) |
| 控除 | 給与所得控除あり | 控除なし |
| 変更の自由度 | 事業年度に1回のみ | 決算後に配当可能 |
この違いは不動産法人の税額に大きく影響します。
役員報酬のメリット
- 法人の利益を抑え、法人税の節税につながる
- 給与所得控除により所得税を軽減できる
- 安定的な「生活費」として毎月受け取れる
ただし、社会保険料が大きな負担となる点はデメリットです。
配当のメリット
- 社会保険料がかからない
- 経営者の判断で柔軟に金額を決められる
- 会社に利益を残して金融機関の評価を上げやすい
デメリットとしては、法人税が下がらない点、累積利益が必要な点があります。
不動産オーナーが理解すべき「税負担の構造」
最適な組み合わせを考えるには、税金の構造を理解することが欠かせません。
税金は「会社」と「個人」の両方で計算される
法人化すると、利益は次の2段階で課税されます。
- 法人税(会社の税金)
- 所得税・住民税(個人の税金)
配当を受け取った場合は「配当所得」として分離課税となり、給与とは異なる税率が適用されます。
社会保険料は「役員報酬」にだけ発生する
社会保険料は、
- 健康保険
- 厚生年金
- 介護保険(対象者のみ)
があり、給与額の約30%程度と高額になるのが特徴です。
そのため、
役員報酬を高くしすぎると、手取りが増えない原因になる
というのが大きな落とし穴です。
典型的なモデルケースで比較する
ここでは、不動産オーナーに多いケースを例にして、役員報酬と配当の違いを具体的に紹介します。
ケース①:年利益600万円の不動産法人
この規模は最も多い層です。
パターンA:役員報酬600万円(配当なし)
- 法人税はほぼゼロ
- 社会保険料が重い(約180万円前後)
- 手取りは約350万円前後
→ 社会保険料の負担が重く非効率
パターンB:役員報酬300万円+配当300万円
- 法人税が発生(約60万円前後)
- 社会保険料が軽くなる(約90万円前後)
- 手取り合計はパターンAより多くなる
→ 役員報酬を減らし、配当を併用する方が手取りが増えるケースが多い
ケース②:利益が大きく増える成長期の不動産法人
役員報酬を増やしすぎると社会保険料負担が重くなり、将来の投資資金が不足しやすい。
→ 配当を併用しながら「法人に利益を残す」ことで、金融機関の評価が上がる
→ 融資を受けやすくなり、物件購入のスピードが上がる
ケース③:小規模法人で社会保険加入義務を抑えたい場合
役員報酬を極端に低くすると社会保険加入要件を満たさなくなる可能性あり。
→ 安全な方法としては「最低限の役員報酬+配当」の併用が最適
不動産オーナーが今日から使える組み合わせの考え方
ここでは、初心者でも迷わないようにシンプルな判断基準をまとめます。
判断基準① 社会保険料を抑えたい → 配当を活用する
役員報酬を上げすぎると社会保険料負担が増えるため、手取りを最適化したい場合は、配当とのバランスが重要です。
判断基準② 法人税を抑えたい → 役員報酬を多めにする
役員報酬は法人の経費になるため、利益を圧縮したい場合は有効です。
判断基準③ 銀行評価を上げたい → 利益を法人に残す
配当よりも内部留保を増やす方が銀行の評価が上がり、融資がスムーズになります。
判断基準④ 将来の資金計画が重要 → 安定した役員報酬を設定
生活費を賄うための“最低限必要な金額”を役員報酬にし、残りを配当に回すのが最も安全です。
役員報酬と配当の最適バランスの考え方
役員報酬と配当の組み合わせ方は「これが正解」という一律の答えはありませんが、不動産オーナーの場合は次の方針がもっとも合理的です。
● 生活費 → 役員報酬でまかなう
生活費は毎月一定額が必要なため、安定支給できる役員報酬の方が適しています。
● 節税・社会保険対策 → 配当を併用する
社会保険料を抑えつつ法人税と個人税のバランスを取りたい場合、配当が効果を発揮します。
● 投資拡大 → 法人に利益を残し、配当は控えめ
金融機関は「法人の利益(内部留保)」を重視します。
資金調達を重視するなら配当を抑え、法人利益を厚くする方が有利です。
不動産オーナー向けのシンプルな最適化ステップ
ここでは専門知識がなくても迷わないよう、金額設定のプロセスを分解します。
ステップ①:年間の生活費を計算する
まず、あなた自身が1年間に必要とする生活費(税金・社会保険料込み)を算出します。
例
- 生活費:300万円
- 貯蓄:100万円
→ 必要額:400万円
この400万円を「まずは役員報酬でまかなう」ことが基本です。
ステップ②:法人の年間利益を把握する
不動産法人の利益は毎月の家賃収入から固定費・経費を控除することで算出します。
例:年間利益 800万円
ステップ③:役員報酬の安全ラインを決める
社会保険料の負担を考慮した上で、次のようにざっくり仮置きします。
● 年収 400万円前後 → 社会保険料の負担を抑えやすい
● 年収 600〜700万円 → 社会保険料が重くなり効率が落ちる
役員報酬は高く設定するほど社会保険料が増えるため、むやみに高額にしないことがポイントです。
ステップ④:残りを配当で受け取る
先ほどの例では、
- 法人利益:800万円
- 役員報酬:400万円
- 法人に残る利益:400万円
この400万円から必要に応じて配当を出すのが理想です。
配当は社会保険料がかからないため、手取りが増えるケースが非常に多いです。
年間利益別のおすすめバランス(初心者向け)
金額はあくまで目安ですが、シンプルに理解できるよう整理します。
● 年利益300〜500万円クラス
→ 役員報酬中心・配当はほぼ不要
理由
- 法人税がそもそも少ない
- 役員報酬で生活費を確保しやすい
- 配当を出してもメリットが薄い
● 年利益600〜900万円クラス(最も多い層)
→ 役員報酬+配当の併用が最適
例
- 役員報酬:300〜400万円
- 配当:200〜300万円
- 法人に利益を少し残す
→ 社会保険料を減らしつつ、手取り最大化ができるバランス
● 年利益1000万円以上クラス
→ 配当を積極活用し、役員報酬を抑える方向へ
理由
- 役員報酬を増やすと社会保険料が爆増
- 配当は一定税率で効率が良い
- 法人に利益を残すと融資評価が上がる
不動産オーナーが陥りやすい失敗例と注意点
最適な組み合わせを考える際、ありがちな失敗を避けることが非常に重要です。
失敗例①:役員報酬を多く設定しすぎて社会保険料が跳ね上がる
役員報酬を多くしすぎると、
「所得税より社会保険料の方が高くなる」
という本末転倒な状態が起きます。
→ 特に役員報酬600〜700万円を超えると効率が急低下します。
失敗例②:配当を出しすぎて法人税が重くなる
配当は経費にならないため、法人税の負担が増えます。
→ 配当は「法人税も増えている」ことを必ず意識する必要があります。
失敗例③:銀行融資を考えずに利益をゼロにしてしまう
不動産投資は融資が命です。
法人利益が0円だと、
「利益が出ない会社」
として評価が下がり、融資が不利になります。
→ 配当より内部留保が重要な年もある。
失敗例④:役員報酬を途中で変えられると思っている
役員報酬は原則として
期首から3ヶ月以内に決めた金額を1年間固定
しなければなりません。
途中で変えるとほぼ全額が損金不算入(経費にならない)となり大きな損失になります。
今日から実践できる最適化の行動ステップ
ここまでを踏まえて、不動産オーナーが今すぐできる改善施策をまとめます。
ステップ①:生活費と将来の投資計画を整理する
役員報酬は「生活費」
配当は「利益の調整」
と役割が違うため、まず生活費を正確に把握します。
ステップ②:法人の利益予測を作成する
年間家賃収入
− 必要経費
= 法人利益
を算出し、利益規模に応じて役員報酬と配当の比率を決めます。
ステップ③:役員報酬の安全ラインを設定する
「生活費を賄える最低限の金額」を軸に設定し、過度に高くしないよう注意します。
ステップ④:配当を年1回の調整弁として使う
決算後、法人利益に余裕がある年のみ配当を出すことで最適化できます。
ステップ⑤:税理士に必ず相談する
役員報酬と配当の最適化は非常に専門的なため、必ず専門家に最終チェックを依頼してください。

