個人事業主や経営者が考える「家賃の節税スキーム」
個人事業主や中小企業経営者にとって、節税は常に重要なテーマです。経費を適切に計上して税金を抑えることは、事業の資金繰りを改善し、投資余力を高めることにつながります。
その中でよく相談されるのが「配偶者や親族が所有する不動産に家賃を払って、それを経費にできないか?」という節税アイデアです。実際に事務所や店舗として利用しているなら一見合理的に思えますし、支払った家賃を経費にできれば税負担の軽減につながると考えるのは自然な発想でしょう。
本当に節税になるのか?
しかし、「親族に家賃を払う=節税になる」とは限りません。税務上は、支払った家賃が適正な金額かどうか、実態があるかどうかが大きなポイントとなります。
税務署は「形式だけの節税スキーム」を厳しくチェックしており、実態のない家賃支払いは「必要経費として認められない」と判断される可能性があります。場合によっては「贈与」とみなされるリスクもあるのです。
よくある誤解
多くの事業者が次のような誤解を抱きがちです。
- 親族に払う家賃は無条件で経費になる
- 家族名義の不動産を利用していれば、形式的に契約書を作れば問題ない
- 家賃を高めに設定すれば節税メリットが大きくなる
これらは必ずしも正しくありません。節税どころか、逆に税務リスクを抱える結果になりかねません。
税務調査で指摘されやすいポイント
税務署が特に注目するのは次のような点です。
- 支払う家賃が 市場相場と比べて不当に高額ではないか
- 本当に事業用として利用しているのか(プライベート利用はないか)
- 契約書や振込記録など、第三者から見ても合理的といえる証拠が揃っているか
こうした観点を踏まえていないと、せっかくの節税スキームが否認される可能性が高まります。
配偶者や親族に家賃を払うと節税になるケース
実際に事業で使用している場合
- 配偶者や親族の所有する建物を事務所や店舗として利用しており、実態として事業用に使われている場合は、支払った家賃を経費として計上できます。
- 例えば、自宅の一部を事業用に借りる場合でも、契約書を作成し、使用部分に応じて合理的な家賃を支払えば経費化は可能です。
家賃が市場相場と同程度の場合
- 税務署は「適正な家賃かどうか」を厳しく見ます。
- 周辺の賃料相場と同水準であれば、不自然な節税目的とは判断されにくく、経費として認められる可能性が高くなります。
節税にならない、あるいは否認されるケース
家賃が相場より高すぎる場合
- 節税を目的に相場の2倍、3倍の家賃を設定すると「過大支払い」とみなされ、必要経費として否認される恐れがあります。
実態のない支払いの場合
- 実際には居住用として使っているのに、事業用だと偽って家賃を支払っているケースは認められません。
- 契約書だけ形式的に作っても、利用実態がなければ否認されます。
振込や契約書がない場合
- 家賃を現金で手渡ししているだけでは、支払いの事実が証明できません。
- 契約書、振込記録、領収書といった証拠の整備がなければ経費性は否定されます。
税務上の根拠と仕組み
所得税法上の「必要経費」
所得税法では、必要経費は「その収入を得るために直接必要な費用」と定義されています。つまり、家賃を経費にできるかどうかは、収入を得るために必要だったと説明できるかどうかが基準です。
相場を基準とする考え方
税務署は「第三者に同条件で貸した場合にどれくらいの賃料になるか」を基準に判断します。
相場から大きく逸脱すると、親族間取引での節税目的と疑われるのです。
贈与税のリスク
相場以上に高い家賃を支払うと、親族に「不相当に有利な利益を与えた」とみなされ、贈与税の対象になる可能性があります。これは節税どころか二重課税につながるため要注意です。
契約書を整備することの重要性
契約書があることで経費性が高まる
親族に家賃を支払う場合、契約書を必ず作成しましょう。形式的に見えても、税務調査では契約書が「実際の賃貸借取引の証拠」として重視されます。
契約書には次の内容を明記します:
- 物件の所在地・面積
- 使用目的(事務所、店舗、倉庫など)
- 家賃金額・支払方法・支払期日
- 契約期間
- 原状回復の取り決め
こうした基本的な条項を整えておくことで、取引の正当性を示せます。
相場家賃を算定する方法
方法1:不動産会社の資料を利用
近隣エリアの賃料相場を不動産会社に調査依頼し、その資料を保管しておくと説得力が高まります。
方法2:不動産ポータルサイトを活用
SUUMOやアットホームなどに掲載されている賃貸物件の情報を参考にし、平米単価×使用面積で合理的な家賃を算出することも可能です。
方法3:固定資産税評価額から算定
建物や土地の固定資産税評価額をベースに、利回りを乗じて適正家賃を算定する方法もあります。
成功事例
事例1:自宅の一部を事務所として利用
個人事業主Aさんは、自宅の1階を事務所として使用。配偶者名義の建物に対して、面積割合に応じた家賃を設定し、契約書を作成。
→ 税務調査でも認められ、家賃を経費として計上することができました。
事例2:倉庫を親族から借りる
中小企業経営者Bさんは、親族所有の倉庫を法人名義で賃貸契約。振込記録を残し、相場相当の賃料を設定。
→ 事業用としての実態が明確で、経費算入が問題なく認められました。
失敗事例
事例1:相場より高額な家賃を設定
Cさんは、節税を目的に相場の2倍近い家賃を親族に支払い。結果、税務署から「過大支払い」として否認され、一部が経費不算入に。
事例2:契約書がなく、現金手渡し
Dさんは、契約書を作成せず現金で親族に家賃を支払っていたため、証拠不足を理由に否認されました。
事例3:実際には居住用で使用
Eさんは、事務所契約と称して家賃を支払っていたが、調査で自宅として利用していたことが判明。結果、経費は全額否認され、追徴課税が課されました。
ポイントの整理
- 契約書と振込記録を残す
- 家賃は必ず相場水準に設定
- 実際に事業用として利用していることを客観的に証明
親族に家賃を支払う際に取るべき具体的ステップ
1. 契約を形式的でなく実態に基づいて整える
- 賃貸借契約書を必ず作成する
- 使用目的や面積を明記し、業務利用の実態と一致させる
- 更新時も契約更新手続きを行い、形式だけで終わらせない
2. 家賃金額を適正に設定する
- 不動産会社の査定や相場データを保管
- 固定資産税評価額を参考に算出する方法も有効
- 相場から大きく外れる金額は避ける
3. 支払い方法を明確にする
- 現金手渡しではなく、必ず銀行振込にする
- 通帳記録を証拠として残しておく
- 領収書も合わせて発行・保存
4. 実際の利用状況を証明できるようにする
- 写真やレイアウト図を残しておく
- 事務所や店舗としての備品配置、来客記録などを保管
- プライベート利用部分と業務利用部分を区分する
5. 税理士と相談して進める
- 税務判断はケースによって異なる
- 経費計上の可否、贈与税リスクの有無などを専門家に確認
- 節税とリスク回避のバランスをとることが重要
まとめ:節税は「実態」と「証拠」がカギ
配偶者や親族に家賃を支払うことは、正しく運用すれば経費として認められ、節税につながります。
しかし、相場を無視した高額な家賃や、実態のない契約では否認され、かえって追徴課税や贈与税リスクを抱えることになります。
大切なのは、
- 実態に即した契約を結ぶこと
- 相場家賃を基準にすること
- 証拠書類を整備すること
これらを徹底することで、安心して節税効果を得ることができるでしょう。

