利回りの種類と計算方法|表面利回りと実質利回りの違いと実務での使い分け

不動産投資における利回りの種類と計算方法を解説するイメージ画像。表面利回りと実質利回りの違いを示す計算機やグラフのイラスト入り。
目次

投資判断を左右する「利回り」を正しく理解しよう

「利回りが高い=良い物件」と思い込み、あとで“想定外の出費”に気づく──不動産投資ではあるあるです。
理由はシンプル。同じ「利回り」でも、何を含めるか・どこまで経費を見るか・借入を入れるかで、数字は大きく変わるから。

まず押さえるべきポイントは次の3つ。

  • **表面利回り(グロス)**は“目安”。運営コストや空室、初期費用を入れていない。
  • **実質利回り(ネット)**は“運営の現実”。空室・運営費・税金などを引いた後の利回り。
  • 自己資金の増え方を見るなら、レバレッジ利回り(Cash-on-Cash)やIRRまで視野に入れる。

以降は、よくある勘違いを解きほぐしつつ、実務で使える計算式・比較表・チェックリストまで一気通貫で解説します。


数字のワナ:よくある誤解と失敗パターン

「満室想定」で計算してしまう

空室は必ず発生します。新築でもリーシング期間、中古なら入退去や原状回復でブランクが出るのが普通です。

目安:エリアや築年により**年間5〜15%**程度を“空室・滞納損失”として見込むのが現実的。

管理費・修繕費を過小評価する

区分マンションは管理費・修繕積立金が毎月固定でかかる。
一棟物件はPM(賃貸管理)手数料・BM(建物管理)・雑排水清掃・法定点検・小修繕が積み上がります。

固都税や保険、広告費を計上しない

  • 固定資産税(標準税率1.4%)・**都市計画税(上限0.3%)**は毎年の固定費。
  • 火災・地震保険入居者募集の広告料・仲介手数料(AD)原状回復も定期的に発生。

初期費用を無視して利回りを語る

仲介手数料・登記費用・ローン事務手数料・保証料・不動産取得税などの取得時コストを入れないと、実際の回収速度を見誤ります。

税金の影響を見ていない

居住用賃料は消費税非課税ですが、所得税・住民税(または法人税)は利益に対して確実にかかります。減価償却の取り方で税負担やキャッシュが変わる点も重要です。


先に結論:この順番で理解すると迷わない

  1. **グロス(表面利回り)**で“相場の位置”と“初期の目利き”
  2. **ネット(実質利回り/NOI利回り)**で“運営の現実値”
  3. **レバレッジ利回り(Cash-on-Cash)**で“自己資金の増え方”
  4. IRRで“出口を含めた総合評価”

物件比較の基本ルール
同じ前提で(空室率、運営費率、税・初期費用の含み方を統一して)比較する。販売図面や業者資料が“独自定義”の場合は、必ず自分の定義に引き直す


利回りの定義と計算式をゼロから整理

用語の地ならし

  • 年間総収入(GPI):満室想定の家賃・共益費等の合計
  • 空室・滞納損失:GPI × 空室・滞納率
  • 実効総収入(EGI):GPI − 空室・滞納損失
  • 運営費(OPEX):PM手数料、管理費・修繕、清掃、法定点検、保険、共用光熱、固都税など
  • NOI(営業純利益):EGI − OPEX(※借入利息・減価償却・税金は含めないのが国際的な定義)
  • 年間CF:税引前または税引後の手元キャッシュフロー(借入の元利・税金を反映)

日本の実務では「実質利回り」の定義がまちまちです。この記事では2つの使い分けを明確にします。

  • 実質利回りA(NOIベース)NOI ÷(購入価格+初期費用)
  • 実質利回りB(税引前CFベース)(NOI − 借入利息 − 元金返済※)÷ 自己資金
    ※元金は費用ではありませんが、手元資金の増減を見るCash-on-Cash視点では差し引く

表面利回り(グロス利回り)

表面利回り(%) = 年間家賃収入(満室想定) ÷ 物件価格 × 100

特徴

  • 最速で“相場の目安”をつかむ指標。
  • 空室・運営費・税・初期費用を含めないため、過大評価になりやすい。
  • 物件の粗選別に使い、これだけで意思決定しない

実質利回りA(NOIベース/ネット利回り)

実質利回りA(%) = NOI ÷(物件価格+初期費用)× 100
  =(実効総収入 - 運営費)÷(物件価格+初期費用)×100

ポイント

  • 空室・運営費・保険・固都税など運営の現実を反映。
  • 借入条件に左右されにくく、物件そのものの収益力を比較しやすい。
  • 売買交渉や価格妥当性の判断に有効(キャップレートとの整合も取りやすい)。

キャップレート(Cap Rate)

Cap Rate(%) = NOI ÷ 取得総額 × 100

使いどころ

  • **市場利回り(投資家の期待収益率)**として使われる。
  • 同エリア・同グレード物件の売買価格をNOIから逆算する際の基準。
  • 物件ミックス(築年、構造、立地)でスプレッドが生じる点に注意。

実質利回りB(税引前CFベース)/レバレッジ利回り(Cash-on-Cash)

レバレッジ利回り(%) = 税引前(後)年間CF ÷ 投入自己資金 × 100
  ※年間CF = NOI - 借入利息 - 元金返済(- 税金)
  ※投入自己資金 = 頭金+初期費用+リフォーム等

ポイント

  • 「自分の財布」がどれだけ増えるかを見るための実戦指標
  • 金利・返済期間・LTV・元金均等/元利均等で数値が大きく変わる
  • 借入を効かせるほど上がりやすいが、金利上昇・空室ショックに弱い

税引後利回り

式(個人/法人いずれも基本形)

税引後利回り(%) = 税引後CF ÷ 自己資金 × 100
税引後CF = 税引前CF - 税金
税金 ≒ 課税所得 × 税率

税務の基本観点

  • 居住用賃料は消費税非課税(課税売上割合に影響)。
  • 減価償却で**所得(≠キャッシュ)**を圧縮でき、税引後CFが改善しうる。
  • 固都税は必要経費。ローン利息は必要経費元金は経費にならない

IRR(内部収益率)と投資回収期間

IRRの考え方

  • 取得(マイナスCF)→保有中のキャッシュフロー→売却(プラスCF)までを含めた総合リターン
  • 持ちっぱなし前提ではなく、出口価格・売却コスト・含み修繕も織り込める。

投資回収期間(Payback)

  • 自己資金を何年で回収できるか。キャッシュ重視の現場で使いやすいが、時間価値は反映しない。

何を“含める”かで利回りはこう変わる(比較表)

指標計算に含める主な項目含めないことが多い項目主な用途注意点
表面利回り満室想定の年間家賃空室損失、運営費、初期費用、税、金利粗選別、相場感過大評価リスク大
実質利回りA(NOI)実効収入、運営費、固都税、保険、初期費用金利・元金、税金物件の収益力比較、価格妥当性前提(空室・費用)の置き方を統一
Cap RateNOI、取得総額金利・税市場利回り・売買価格の逆算同グレード比較が原則
レバレッジ利回りNOI、借入元利、税(任意)、自己資金自己資金の増加率評価金利・LTV感応度が高い
税引後利回り税引後CF、自己資金手取り最重視の意思決定税率・減価償却の設計が鍵
IRR取得時・保有中・売却時の全CF出口込みの総合評価前提依存度が高い

実務で必要なデータの集め方(チェックリスト)

収入面

  • 想定賃料(近隣成約・募集事例)
  • 共益費・駐車場・自販機・アンテナや屋上使用料などの雑収入
  • 空室率の仮置き(エリア×築年×間取り×供給状況を踏まえ設定)

運営費(OPEX)

  • PM手数料(家賃×○%)
  • BM・清掃・法定点検(貯水槽・消防・エレベータ等)
  • 共用部光熱水費
  • 火災・地震保険料
  • 固定資産税・都市計画税(評価額と課税明細)
  • 原状回復、入替時の広告料・仲介手数料(AD)
  • エレベータ・屋上・外壁など周期修繕の概算(年割り)

取得時コスト(初期費用)

  • 仲介手数料、売買契約の印紙税
  • 登録免許税・司法書士報酬、ローン事務手数料・保証料
  • 不動産取得税(※用途・特例で変動、都道府県からの納税通知の時期に注意)
  • 取得時の初期修繕・リフォーム

金融条件

  • 金利、返済方式(元利/元金均等)、返済期間、LTV、団信・保証料
  • 繰上返済の手数料・ルール

計算ステップをフォーマット化する(テンプレ構造)

ステップ1:表面利回り

  1. 年間家賃 = 月額賃料 × 12
  2. 表面利回り = 年間家賃 ÷ 物件価格

ステップ2:実質利回りA(NOI)

  1. GPI(満室)→ 空室・滞納控除 → EGI
  2. EGI − OPEX(PM、BM、保険、固都税、共用光熱、清掃、法定点検、広告・原状回復年割り等)= NOI
  3. 実質利回りA = NOI ÷(物件価格+初期費用)

ステップ3:レバレッジ利回り(Cash-on-Cash)

  1. 年間返済(元利)・うち利息/元金を分解
  2. 税引前CF = NOI − 借入利息 − 元金返済
  3. 税引前(後)Cash-on-Cash = 年間CF ÷ 自己資金

ステップ4:IRR(任意)

  • 保有年数、売却価格(NOI/Cap Rate逆算 or 市場想定)、売却コストを入れて全期間CFから算出

「費用の置き方」で結果はここまで変わる(ベンチマークの目安)

  • 空室・滞納率:安定エリアのシングル区分で5〜8%、築古一棟で**8〜15%**程度を仮置き
  • PM手数料:家賃の**3〜5%**が目安(募集時は別途ADの可能性)
  • 保険料:構造・立地でブレる(地震保険の加入有無)
  • 周期修繕:外壁・屋上・EV等を年割りで参入
  • 固都税:評価替えや課税明細の確認が必須(標準税率に留意)

重要:根拠のない“低め設定”は後で自分を裏切ります。 過去実績・見積・周辺事例で裏取りを。

ケーススタディで学ぶ利回りの実際

区分マンション投資の例

前提条件

  • 物件価格:2,000万円
  • 月額賃料:8万円(共益費込)
  • 管理費・修繕積立金:月15,000円
  • 空室率:5%
  • 固都税:年10万円
  • 保険料:年2万円
  • 仲介手数料等の初期費用:100万円

計算ステップ

  1. 表面利回り 年間家賃 = 8万円 × 12ヶ月 = 96万円 表面利回り = 96万円 ÷ 2,000万円 = 4.8%
  2. 実効総収入(EGI) EGI = 96万円 × (1 - 5%) = 91.2万円
  3. 運営費(OPEX) 管理費・修繕積立金 = 15,000円 × 12 = 18万円 固都税・保険料 = 12万円 OPEX合計 = 30万円
  4. NOI NOI = 91.2万円 - 30万円 = 61.2万円
  5. 実質利回りA(NOIベース) 実質利回り = 61.2万円 ÷ (2,000万円 + 100万円) = 約2.9%

➡ 表面4.8%が、実質では2.9%にまで低下することが分かります。
ここを見落とすと「思ったより残らない」典型例に陥ります。


一棟アパート投資の例

前提条件

  • 物件価格:6,000万円
  • 戸数:6戸(各月6万円)
  • 満室年間家賃:432万円
  • 空室率:10%
  • 運営費率:25%(PM、修繕、清掃、保険、固都税など)
  • 初期費用:300万円
  • 融資:5,000万円(金利2.0%、返済期間25年、元利均等)

計算ステップ

  1. 表面利回り 表面利回り = 432万円 ÷ 6,000万円 = 7.2%
  2. EGI(空室反映) EGI = 432万円 × (1 - 10%) = 388.8万円
  3. 運営費(25%仮置き) 運営費 = 388.8万円 × 25% = 97.2万円
  4. NOI NOI = 388.8万円 - 97.2万円 = 291.6万円
  5. 実質利回りA 実質利回り = 291.6万円 ÷ (6,000万円 + 300万円) = 約4.7%
  6. 年間返済額(ローン)
    • 5,000万円、25年、2.0%、元利均等 → 年間約254万円
  7. 税引前CF(Cash-on-Cash) CF = NOI - 年間返済 = 291.6万円 - 254万円 = 37.6万円 自己資金 = 1,300万円(頭金+初期費用) レバレッジ利回り = 37.6万円 ÷ 1,300万円 = 約2.9%

➡ 表面7.2%の物件が、借入を加味すると自己資金利回りは2.9%程度
ただし、元金は返済で減っているため純資産増加も同時に進んでいます。


築古再生のケース

前提条件

  • 物件価格:2,000万円
  • リフォーム費用:500万円
  • 月額賃料(リフォーム後):12万円
  • 空室率:10%
  • 運営費率:20%
  • 固都税・保険料:年間15万円

計算ステップ

  1. 年間家賃 12万円 × 12ヶ月 = 144万円
  2. EGI 144万円 × (1 - 10%) = 129.6万円
  3. 運営費 129.6万円 × 20% + 固都税保険15万円 = 約40万円
  4. NOI 129.6万円 - 40万円 = 89.6万円
  5. 実質利回りA 投資総額 = 2,000万円 + 500万円 = 2,500万円 実質利回り = 89.6万円 ÷ 2,500万円 = 約3.6%

➡ 「リフォームで家賃UP」しても、投資総額を考慮すると利回りが下がるケースもあります。
回収期間や出口戦略まで見据えたシミュレーションが必須です。


前提を動かして感応度を確認する

空室率を動かす

  • 区分:5% → 10%に悪化 → NOIが5万円程度減少
  • 一棟:10% → 15%に悪化 → NOIが約19万円減少

➡ わずか空室率5%の差が、自己資金利回りを1%近く押し下げる場合もあります。

金利を動かす

  • 一棟アパートの例:金利2.0% → 3.0%
    → 年間返済額が約254万円 → 約285万円へ増加
    → CFが約38万円 → 約7万円に激減

金利上昇はCFを直撃します。変動金利を選ぶ場合、金利上昇ストレステストは必須です。


行動につなげるステップ

1. 独自の「利回り定義フォーマット」を作る

  • 表面利回り → 相場目安
  • 実質利回り(NOI) → 物件力比較
  • Cash-on-Cash → 自己資金効率
  • IRR → 総合評価

➡ 「自分の言葉」で統一し、資料比較の際は必ず再計算する。

2. 物件検討時のルーチンを固める

  • 収入・費用・初期費用・借入条件を必ずExcelやGoogleスプレッドシートに入力
  • 空室率・金利・運営費率を複数パターンで回す
  • 表面→実質→Cash-on-Cash→IRRの順で視覚化

3. 金融機関との会話に備える

  • 銀行はNOI/Cap Rateや**DSCR(返済余裕率)**を見ている
  • **「空室率を何%で置いているか」**を聞かれるので、根拠を準備
  • 物件取得後は実績値をアップデートしてフォーマットを改善

4. 投資判断の基準を明文化する

  • 自己資金利回りが○%以上ならGO
  • IRRが○%以上なら長期保有OK
  • 空室率・金利変動シナリオで赤字にならないかチェック

➡ こうして「感覚」ではなく「ルール」で判断することで、投資ブレを防ぎます。


まとめ:利回りを“多層的”に見れば失敗は減らせる

  • 表面利回りは目安にすぎず、実際の数字は必ず低くなる。
  • 実質利回り(NOI)は物件そのものの収益力を示す。
  • Cash-on-CashやIRRは投資家の財布の増減や出口を含めて評価できる。
  • 空室・金利・運営費の前提を動かすと利回りは大きく変動する。

👉 したがって、複数の利回りを併用し、自分の基準で再計算する習慣が成功のカギとなります。

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