個人名義から法人名義へ不動産を移す際の税務・メリット・注意点をわかりやすく解説

個人が所有する家を法人へ移転するイメージとして、男性が家の模型を手に持ち、矢印が法人ビルへ向かっている構図のイラスト。背景には書類や円マークのアイコンが描かれ、個人名義から法人名義へ不動産を移すテーマを視覚的に表現した画像。
目次

不動産を法人へ移すと“手残り”が変わる理由

不動産投資を続けていく中で、「個人名義のままで良いのか」「法人へ移したほうが節税になるのか」という悩みは多くの人が抱えています。特に物件が増えて収入が大きくなると、所得税率が上がり手取りが減るため、法人化を検討するケースは非常に一般的です。

法人に不動産を移すと、以下のような変化が起こります。

  • 経費として認められる幅が広がる
  • 法人税率が一定で上限が低い
  • 家族を役員にすれば所得分散できる
  • 節税の選択肢が増える(社宅制度、退職金など)

一方で、法人に不動産を移す際には複数の税金や法律が絡み、誤った移転方法を選ぶと「想定外の税金を支払うことになる」ことも珍しくありません。
そのため、不動産の“名義移転”は節税テクニックとして非常に強力である一方で、慎重な判断が求められるテーマなのです。


不動産を法人に移転する際に抱えやすい疑問

初心者の不動産オーナーが「個人→法人」への名義移転を考えると、必ず次のような疑問や不安が生まれます。

●どれくらい税金がかかるのか?

不動産の移転では、売買・贈与・出資のいずれを選ぶかで税金が大きく変わります。
知らずにやってしまうと、数百万円単位の税負担になることもあります。

●ローンを借りている場合はどうなる?

ローンが残っている物件を法人に移すには、銀行の承諾が必要です。
承諾なしでは移転できず、借り換えが必要になることもあります。

●個人で所有するメリットは消えるの?

法人化すると節税には有利ですが、個人での特典(青色申告65万円控除・損益通算など)が使えなくなる場合があります。

●将来の相続にも影響があるの?

法人で所有すると相続財産が変わるため、節税にも不利にもなり得ます。
安易に移すと後で後悔することもあります。

これらの疑問を放置したまま移転すると大きな負担が生まれるため、まずは税務の基本構造を理解しておく必要があります。


個人名義から法人名義へ不動産を移す方法は3つある

不動産を法人に移す方法は、大きく次の3つに分かれます。
この方法選びが、税額とメリットを大きく左右する最重要ポイントです。


●① 売買により法人へ移転(最も一般的)

個人が法人に不動産を「売却」し、新しい名義人として法人が登記する方法です。

【特徴】

  • 手続きが簡単
  • 個人側は譲渡所得税の課税対象
  • 法人側は購入価額で固定資産として計上
  • 親族間や自分の法人でも市場価格で売買する必要あり

【ポイント】
売買なので“実際に金銭のやり取り”を行う必要があります。
帳簿上のみの処理では認められません。


●② 贈与として法人に移転(特殊ケース)

個人が所有する不動産を法人へ“無償で譲る”方法です。

【デメリットが大きい理由】

  • 法人に贈与した場合、法人側に贈与税が課される
  • 法人への贈与税は“非常に重く”、ほとんど選ばれない

法人への贈与は税負担が大きすぎるため、実務ではほぼ使われません。


●③ 現物出資として法人に入れる(節税効果あり)

現物出資とは、不動産を「資本金代わりに法人へ入れる」方法です。

【メリット】

  • 法人へ対価を求めないため贈与にならない
  • 不動産取得税が軽減または非課税になる可能性
  • 法人の資本金を増やせる

【注意点】

  • 不動産の“評価額”で出資した扱いになる
  • 税務署が適正価格を厳しくチェック
  • 登記時に検査役が必要なケースあり

現物出資は節税効果が期待できますが、手続きが複雑なため専門家のサポートが必須です。


個人→法人名義へ移すと発生する税金の全体像

不動産の名義移転には、複数の税金が絡みます。
ここでは税金の種類を整理し、どの移転方法にも共通する基礎知識をまとめます。


●① 個人側(売る側)にかかる税金

売買により移転する場合、個人は“譲渡所得税”の対象になります。

【譲渡所得税の計算式】
譲渡所得 = 売却価額 −(取得費+譲渡費用)

●長期(5年以上)
税率:約20%

●短期(5年以内)
税率:約39%(高い)

また、ローンが残っている不動産を法人に売る場合、「負担付譲渡」となり譲渡所得が膨らむケースがあるため注意が必要です。


●② 法人側(買う側)にかかる税金

法人側は「取得」した扱いになるため、以下の税金が発生します。

●不動産取得税

固定資産税評価額 × 4%
(住宅は軽減で3%のことが多い)

●登録免許税

売買:固定資産税評価額 × 2%
現物出資:一定条件で0.7%へ軽減


●③ 消費税がかかるケースもある

建物部分が「課税資産」であれば、売買時に消費税が発生します。
ただし土地は非課税です。


●④ 法人で持つと“家賃”の扱いが変わる

移転後は、個人がその不動産に居住する場合、家賃の支払いが必要です。
無償で住むと「経済的利益の提供」とみなされ、所得として課税されます。


個人名義のメリットがなくなる点にも注意が必要

個人名義から法人名義へ移すと、以下のメリットが失われることがあります。


●① 損益通算ができなくなる

個人の場合、不動産所得が赤字になると給与所得などと損益通算できます。
法人にすると、この制度は使えません。


●② 住宅ローン控除が使えなくなる

個人が居住用に借りる住宅ローンには控除がありますが、法人名義では使えません。


●③ 青色申告特別控除が使えない

個人の場合は青色申告65万円控除が使えますが、法人では適用されません。


法人名義のメリットは節税だけではない

個人のメリットが失われる一方で、法人名義にすると以下の大きなメリットがあります。


●① 法人税率が一定で上限が低い

個人の所得税は最大55%ですが、法人税+住民税は小規模法人で実質約23%程度に収まります。


●② 経費化できる範囲が広い

法人では次のような支出も経費計上が可能です。

  • 社宅家賃
  • 役員報酬
  • 役員退職金
  • 家族への給与
  • 生命保険

●③ 複数物件を保有するときの管理がしやすい

法人を利用すると、銀行との取引や会計処理が明確になります。
資産管理会社として不動産をまとめやすく、相続対策としてもメリットがあります。

不動産の移転方法ごとの具体的なケース別シミュレーション

ここからは、実際に多くのオーナーが検討する移転パターンを、より具体的にイメージできるよう事例形式で紹介します。税負担・メリット・注意点を比較しながら、どのケースが最適か判断しやすいよう解説します。


●ケース1:売買で法人に移す場合(最も一般的)

ある不動産オーナーが、個人名義で所有するアパートを、自身の資産管理法人に移転したいと考えたケースを見てみましょう。

【条件】

  • 購入価格:4,000万円
  • 現在の固定資産税評価額:2,000万円
  • 市場価格:3,500万円
  • ローン残債:2,500万円

【ポイント】
売買では“市場価格”に基づいた売却が必要です。
例えば法人に3,500万円で売却した場合、個人側は譲渡所得の計算をします。

【譲渡所得のイメージ】
売却価格3,500万円 −(取得費4,000万円)=▲500万円

この場合は譲渡所得がマイナスのため税金はかかりません。

【法人側の負担】

  • 不動産取得税:約60万円(評価額×3%)
  • 登録免許税:約40万円(評価額×2%)
  • 登記費用など

【メリット】

  • 手続きがシンプル
  • ローン借り換えがスムーズなら実務的に最も安定
  • 法人の経費・節税メリットをすぐ活用できる

ローン借り換えがスムーズであれば、最も現実的な移転方法です。


●ケース2:現物出資による移転(節税効果が高い)

現物出資は「不動産を資本金として法人へ入れる」方法です。
金銭を動かさないため、負担が比較的少ないケースがあります。

【条件】

  • 固定資産税評価額:2,000万円
  • 法人設立or資本金増資のため現物出資

【法人のメリット】

  • 資本金が増え、金融機関の信用が上がる
  • 不動産取得税が軽減されることがある
  • 登録免許税も要件により軽減

【注意点】

  • 適正評価で出資しないと、税務署から否認される
  • 検査役(公認会計士など)の評価書が必要な場合がある
  • 手続きが複雑

専門家のサポートがあれば強力な手法ですが、初心者が単独で行うのは難しい方法でもあります。


●ケース3:ローンが残っている物件を移転する場合

ローン残ありの物件は非常に注意が必要です。
その理由は「負担付譲渡」と判断されると税金が増えるからです。

【例】

  • 売却価格:3,500万円
  • ローン残債:2,500万円

負担付譲渡では、法人側が引き継ぐローン残債(2,500万円)が“対価”とみなされ、個人側に譲渡所得税が発生する可能性があります。

【譲渡所得が出るパターン】
取得費が低い場合、譲渡所得が急増します。

【解決策】

  • 売買せず、ローンの名義変更(銀行承諾)を先に行う
  • 完済後に移転する
  • 完済できない場合は売却価格の調整を専門家と相談

ローン残ありの移転は最もトラブルが生じやすい部分で、税理士・金融機関・司法書士との連携が必須です。


税金を最小化するための実務テクニック

不動産を法人へ移す際、税金をできるだけ抑えるために実務で使われる代表的な方法をまとめます。


●① 市場価格を正確に把握する(高すぎても低すぎてもNG)

売買価格を適正にしないと、税務署に「低額譲渡」と判断され、不当に高い課税がされることがあります。

【対策】

  • 不動産鑑定士の評価書
  • 仲介会社の査定書
  • 路線価・固定資産税評価と比較

適正価格の証拠を残しておくことが重要です。


●② 出資(現物出資)を活用して取得税を抑える

一定要件を満たすと、不動産取得税が軽減されるため、大きな節税効果があります。


●③ 法人設立時期を調整して節税効果を最大化

法人を年度途中に設立し、決算期を工夫すると、初年度の税負担が小さくなります。
特に減価償却費を最大化できるよう決算期を調整するケースがあります。


●④ 家族を役員にして所得分散を行う

法人化後は

  • 役員報酬
  • 社宅制度
  • 退職金制度

などを使って節税が可能です。


●⑤ 法人名義に変えた後も個人の資産との区分管理を徹底する

名義移転後は

  • 法人口座
  • 法人カード
  • 法人名義の保険
    などを使い、個人と法人のお金を完全に分けることが非常に重要です。

実際に不動産を法人に移転するための行動ステップ

初心者の不動産オーナーでも実践できるよう、実際の流れをステップごとに明確化します。


●ステップ1:不動産の評価と移転方法を決定する

  • 売買/現物出資/贈与(非推奨)
  • 税負担の比較
  • 法人化の目的を明確に

●ステップ2:金融機関にローン承諾を確認する

ローン残ありの場合、銀行承諾は必須です。
承諾が得られない限り、移転は不可能です。


●ステップ3:法人の決算期・資本金・役員構成を決める

決算期の調整で節税効果は大きく変わります。


●ステップ4:不動産の価格証明を準備する

  • 査定書
  • 路線価・評価証明
  • 不動産鑑定(必要に応じて)

●ステップ5:売買契約または現物出資の手続き

専門家(税理士/司法書士/行政書士)に依頼するとスムーズです。


●ステップ6:登記申請と税務署への届出

  • 登録免許税の支払い
  • 法人の税務届出(設立1〜2ヶ月以内)
  • 法人口座の開設

●ステップ7:法人での不動産管理体制を整える

  • 法人会計ソフト
  • 家賃の法人名義化
  • 法人保険の検討
  • 家族への役員報酬設定

これらが整ってはじめて“法人として不動産を活用できる状態”になります。


不動産の名義移転は節税と管理効率化の両方に効果がある

個人名義から法人名義に不動産を移すことは、節税メリットだけでなく、以下の大きな効果があります。

  • 法人税率による手残り増加
  • 管理業務の効率化
  • 家族への所得分散
  • 将来の相続整理(法人株として承継しやすい)

ただし、間違った移転方法を選ぶと
「個人で持っていた方が良かった」
という結果になるケースも存在します。

税金・手続き・ローン・相続のすべてを踏まえた判断が必要なため、専門家と連携しながら慎重に進めることが大切です。

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