共有名義・持分調整による相続贈与の節税スキーム|不動産オーナーが使う実践的テクニック

共有名義と持分調整による相続税・贈与税の節税スキームを説明するために、家と夫婦のイラスト、50%ずつの持分表示、相続と贈与の書類アイコンを組み合わせた視覚的イメージ。
目次

不動産の共有名義が相続・贈与の節税に大きく影響する理由

不動産は、現金や有価証券に比べて「評価額を下げやすい資産」です。
特に、土地・建物を複数人で所有する“共有名義(きょうゆうめいぎ)”は、相続税・贈与税の計算で有利に働くことが多く、資産家が積極的に活用する節税スキームでもあります。

しかし、不動産初心者の多くは次のような疑問や不安を持っています。

  • 共有名義にすると本当に節税になるの?
  • 持分割合で何が変わる?
  • 贈与税の基礎控除をどう使えばよい?
  • 子どもに贈与したいがタイミングを間違えると危険?
  • 税務署はどこを見ているの?

共有名義は、単なる持ち分の分け方ではなく、
相続税・贈与税・所得税のすべてを左右する非常に重要な要素です。

特に、相続対策として広く使われているスキームには以下があります。

  • 生前の持分移転による評価額の分散
  • 持分の小口化による相続税圧縮
  • 贈与税の基礎控除・配偶者控除の活用
  • 子どもや配偶者との共有により課税対象を大きく減らす
  • 不動産の評価引下げ効果を最大限に利用する

本記事では、不動産オーナーが知っておくべき「共有名義と持分調整」の節税戦略を、初心者にも理解しやすく丁寧に解説します。


共有名義が節税戦略として機能する背景

共有名義の節税効果を理解するには、まず不動産の“評価減”の仕組みを知る必要があります。

不動産は、次のような理由で評価額が現実の市場価格よりも低めに算定されます。

  • 土地は路線価(実勢の7〜8割)で評価
  • 建物は固定資産税の評価(実勢の50〜70%)
  • 賃貸物件の場合は「貸家建付地評価」が適用され、さらに引下げ
  • さらに「共有名義」の場合、各共有者の持分だけ評価される

つまり、共有者が増える=1人あたりの評価額が減ることで、相続税負担を大きく減らせるのです。

さらに次のメリットがあります。

●共有名義の節税メリット

  • 各人の基礎控除を利用できる
  • 相続税率の累進課税を避けられる
  • 生前贈与で持分移転する際の評価が下がる
  • 贈与税の負担を抑えながら資産移転できる
  • 所得分散による所得税の節税も可能

共有名義は節税の基盤になるため、資産家ほど早めに取り組む傾向があります。


共有名義を使うと相続税が下がる仕組み

共有名義が相続において大きな効果を生む理由を、税務の仕組みから説明します。


●仕組み①:評価額が持分に応じて分散される

不動産の共有名義では、相続人それぞれが「持分」に応じて評価額を引き継ぎます。


●仕組み②:評価額が“分割”されることで累進税率を避けられる

相続税は累進課税(所得税と同じ)で、財産が多いほど税率が高くなります。
持分を複数の相続人に分散すると、高い税率のラインを避けやすくなります。


●仕組み③:賃貸物件ならさらに評価が下がる

賃貸マンションやアパートなどは「貸家建付地評価」が適用され、評価が約20%下がります。
これが共有名義に分散されるため、節税効果はさらに上昇します。


●仕組み④:配偶者には配偶者控除が使える

配偶者は相続税で非常に強力な「1億6,000万円まで無税」の控除を使えます。
そのため、配偶者と共有にしておくことで相続税の負担を大きく下げることができます。


贈与の段階で活用できる節税メリット

共有名義は相続時だけでなく、生前の贈与でも大きな節税効果を発揮します。

特に以下の制度を組み合わせることで効果が大きくなります。


●年間110万円の基礎控除を使った持分贈与

毎年110万円まで非課税で贈与できる制度。
不動産持分を少しずつ移転することで、長期的に大きな相続税対策になります。

例:

  • 3000万円の土地を子に毎年110万円ずつ贈与
    → 持分10%分ずつを数年で移転
    → 将来の相続財産を大幅に圧縮

●配偶者への2,000万円の特例(おしどり贈与)

一定条件を満たすと、配偶者に対して

  • 最大2,000万円の贈与が非課税(+基礎控除110万円)

実質、最大「2,110万円」まで贈与可能。

この制度を利用すれば、
妻(夫)と共有名義にすることで相続税をほぼゼロに近づけるケースもあります。


●評価額が下がっているタイミングで持分贈与

以下のようなタイミングの贈与は特に有利です。

  • 老朽化で建物評価が下がっている時期
  • 空室が多い時期
  • 市場価格が一時的に下落している時期
  • 建物の減価償却が進んでいる時期

“評価が安い=贈与税も安い”ため、節税効果が大きくなります。


持分割合を変えることで節税効果を最大化する方法

持分割合は自由に設定できますが、節税目的で組む場合は次のパターンが主流です。


●パターン①:配偶者と50:50で共有

メリット

  • 配偶者控除が使える
  • 夫婦の所得分散が可能
  • 相続税の評価も分散

デメリット

  • 夫婦関係が悪化した場合にリスク
  • 将来売却時に意思決定が複雑になる

●パターン②:子どもに少しずつ(10〜30%)持分を移転

メリット

  • 相続財産を長期的に圧縮
  • 生前に所得分散が可能
  • 将来の相続トラブル回避にも効果

デメリット

  • 共有者が増えると売却が難しくなる
  • 贈与税申告が必要な場合がある

●パターン③:法人と個人の共有(高度スキーム)

不動産オーナーがよく使う節税技術。

メリット

  • 法人の低税率(15%)を活用
  • 所得分散で所得税を削減
  • 将来の相続時に個人持分のみ課税

デメリット

  • 取り扱い難度が高い
  • 適切な税務判断が必要

税務署が共有名義の節税をチェックする重要ポイント

共有名義を使えば節税効果は大きい一方、税務署は以下のポイントを重点的に確認します。

節税対策として共有名義を使う場合、この視点を理解しておくことで否認リスクを大幅に下げられます。


●ポイント①:持分の移転は「実態が伴っているか」

名義だけ子どもに移して、実質的には親が100%管理・運用している状態は税務署に嫌われます。

特に以下のケースは危険です。

  • 収入の管理者が実際と名義上の所有者で異なる
  • 親が全額を管理し、子どもには実質権限がない
  • 家賃収入の流れが名義に連動していない
  • 実態として共有者に支配権がない

対策

  • 家賃収入は持分に応じて振り分ける
  • 契約書や管理契約で共有者に権限を設定

●ポイント②:持分贈与の対価が適正か

“時価より高く(or 低く)買った/売った”と判断されると、贈与扱いになります。

例:
持分の価値 1,000万円
→ 親から子に500万円で売却
→ 差額の500万円が「贈与」と判断される

対策

  • 必ず不動産鑑定士 or 税理士に「評価額」を確認
  • 売買契約書に評価根拠を記載

●ポイント③:贈与税の申告漏れがないか

持分移転に贈与税は必ずついて回ります。
年間110万円以下の場合は非課税ですが、それ以外は申告が必要です。

対策

  • 110万円を超える贈与は必ず贈与税申告
  • 連年贈与と誤解されないよう書面を残す

●ポイント④:共有名義の利用目的

税務署は「節税目的だけの共有」と判断すると厳しい対応をします。
そのため、以下のような“合理的な理由”を残すことが重要です。

例:

  • 配偶者と共同でローンを支払った
  • 将来の相続トラブル防止
  • 管理負担を家族で分けるため
  • 既に家族で資金を出し合っていた

こうした根拠があると、節税目的だと思われず安全です。


贈与・相続で否認される典型的な失敗例

共有名義は節税効果が大きい一方、間違えると大きな課税リスクが発生します。

以下は税務調査でよくある否認パターンです。


●NG①:実態が伴わない名義だけの持分

「子ども名義にしたけど、家賃は全部親の口座に入れていた」
→ 最も多い否認パターンです。

結果

  • 贈与がなかったことにされる
  • 相続時に100%親の財産と認定される
  • 過少申告・加算税のリスク

●NG②:子どもへの共有移転を繰り返し“連年贈与”と判断される

毎年110万円ずつ贈与して持分を増やす方法は有効ですが、
「あらかじめ決められた計画通りの贈与」は
→ 連年贈与として一括課税されることがある。

対策

  • 毎年、贈与契約書を作成する
  • 贈与の意思をその都度確認できる書面を残す
  • 贈与額や時期を毎年変える

●NG③:親がローンを払い続けているのに子ども名義の持分がある

持分を持つからには、必ず対価を支払っている必要があります。

親がローン100%負担なのに、子どもが持分50%
→ 子どもに50%相当の贈与をしたと判断されます。


●NG④:共有者の持分割合と家賃配分が一致していない

持分30%なのに家賃を100%もらっている
→ 実態が一致せず、否認されやすい。


共有名義を使った相続税の圧縮実例

実際の不動産オーナーが活用する典型的な節税ケースを紹介します。


●ケース①:配偶者と共有にして相続税ゼロに近づける

例:
5,000万円の賃貸物件

  • 配偶者持分:50%
  • 自分の持分:50%

相続時
→ 配偶者の持分は「配偶者控除」で非課税
→ 自分の50%のみ相続税対象

【節税効果】

  • 相続税の税率が低いラインに収まる
  • 5,000万円の半分が非課税に

●ケース②:子どもへ持分10%を数年かけて贈与

評価額 4,000万円の土地
→ 毎年110万円ずつ贈与
→ 数年で子どもの持分20〜30%を移転

【節税効果】

  • 生前の財産圧縮
  • 累進税率の上昇を抑える
  • 子どもが相続する財産総額が少なくなる

●ケース③:法人と共有にして所得分散

例:

  • 個人持分:30%
  • 法人持分:70%

家賃収入が年間700万円でも
→ 法人が受け取る分は低税率(15%)
→ 個人の高税率帯に入らないよう調整

【節税効果】

  • 所得税・住民税の大幅削減
  • 役員報酬より効率が良い場合もある

持分割合の最適化シミュレーション

共有名義の最適解は、家庭構成や資産状況で大きく変わります。

以下は基本的な考え方です。


●配偶者と共有する場合

  • 相続税の配偶者控除を活かしたい
    配偶者50%もしくは40%程度

●子どもと共有する場合

  • 生前贈与で相続財産を減らしたい
    10〜30%を目標に少しずつ贈与

●法人を活用したい場合

  • 家賃を法人に集めたい場合
    法人70%・個人30%など

共有名義のデメリット(対策つき)

共有名義の節税効果は大きいですが、デメリットもあります。


●デメリット①:売却に共有者全員の同意が必要

対策

  • “共有者間契約”を作っておく
  • 持分ごとに売却できるように準備しておく

●デメリット②:管理が複雑になる

対策

  • 管理会社に業務を委託
  • 収入・支出を持分ごとに分けて管理

●デメリット③:揉めると分割が難しい

対策

  • 遺言書で将来の取り決めを明確化
  • 共有者の範囲を広げすぎない

今日からできる共有名義の節税アクション

実際に共有名義を活用するためのステップです。


●ステップ1:不動産の評価額を把握する

土地・建物・賃貸物件の評価額を知ることで節税プランが作れます。


●ステップ2:誰にどのくらい持分を持たせたいか整理

配偶者・子ども・法人のどれを使うか整理します。


●ステップ3:贈与のタイミングと金額を計画

  • 評価が低い時期
  • 110万円の基礎控除
  • 2,000万円の配偶者控除

を組み合わせる。


●ステップ4:家賃収入や管理権限を持分に合わせて整理

実態と名義を一致させる。


●ステップ5:税理士と共有し、申告漏れを防止する

贈与税の申告、評価額の算定、契約書の作成は専門家の領域です。

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