不動産を法人で購入するメリットと注意点|個人購入との比較で徹底解説

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目次

法人による不動産購入が注目される背景

不動産投資といえば個人で行うイメージが強いですが、近年は法人を活用して不動産を購入するケースが増えています。特に中小企業経営者や個人事業主が、法人化を機に不動産を法人名義で取得する流れが目立ちます。

その理由は明確で、税制面や資産運用の効率化、事業承継や相続対策といった複数のメリットが期待できるからです。


個人購入との違いに潜む課題

しかし、法人で不動産を購入することはメリットばかりではありません。

  • 資金調達やローン条件が個人と異なる
  • 税務処理や会計管理の複雑化
  • 不動産の利用目的による税制上の扱いの違い
  • 将来的な売却時にかかる税率の高さ

このように、正しい理解なく法人購入を進めると、思わぬコストやリスクを抱えることになります。


経営者が知っておくべき疑問

経営者や投資家からよく寄せられる質問には次のようなものがあります。

  • 「法人で不動産を買ったほうが節税になるのか?」
  • 「法人と個人、どちらで購入したほうが得か?」
  • 「法人購入に適した不動産の種類や規模は?」
  • 「金融機関の融資は法人だと不利になるのか?」
  • 「出口戦略を考えると法人は不利なのでは?」

これらの疑問に答えるためには、法人購入のメリットとデメリットを体系的に理解し、自社に合う選択をすることが欠かせません。


法人購入を検討する際の大前提

法人で不動産を購入する際に重要なのは、「節税」だけを目的にしないことです。
確かに法人化によって税率のコントロールや経費の計上幅が広がりますが、法人を設立・維持するためのコストもかかります。

👉 法人購入はあくまで 資産形成・事業戦略・相続対策を含めた総合判断 の中で選択することが成功の鍵になります。

法人で不動産を購入するメリット

1. 法人税率の有利さを活用できる

  • 個人所得税は累進課税で最高45%に達するのに対し、法人税は中小企業の場合23.2%程度(地方法人税含む)で一定水準。
  • 利益が大きい場合、法人購入のほうが税負担を抑えやすい。

2. 経費計上の幅が広がる

法人名義で不動産を所有すると、以下の支出を経費に算入可能:

  • 役員や社員の社宅として利用する場合の家賃
  • 物件管理に関する外注費や修繕費
  • 減価償却費

👉 個人よりも幅広い経費処理が可能になり、法人全体の利益圧縮につながる。


3. 事業承継・相続対策になる

  • 不動産を法人名義にしておくことで、法人株式を承継させれば資産移転がスムーズに進む。
  • 個人所有だと相続時に相続税が直接課税されるが、法人所有なら評価額をコントロールできる場合がある。

4. 節税と資金運用の多角化

  • 法人で不動産を所有することで、事業利益と投資利益を組み合わせて管理可能。
  • 退職金制度や生命保険と併せて法人全体の節税戦略を組み立てやすい。

法人で不動産を購入するデメリット

1. 売却時の税率が高い

  • 個人:不動産を5年以上保有すれば「長期譲渡所得」となり税率20%程度。
  • 法人:売却益はすべて法人税率で課税されるため、約30%前後となり高くなるケースが多い。

2. 維持コストがかかる

  • 法人を維持するために決算・申告業務が必須であり、税理士報酬や登記費用などの固定コストが発生。
  • 利益規模が小さいと、法人維持コストが節税効果を上回るリスクがある。

3. 資金調達のハードル

  • 個人の住宅ローンに比べ、法人の不動産ローンは金利が高く、審査も厳しい。
  • 個人保証を求められるケースも多いため、必ずしも法人の方が融資で有利とは限らない。

4. 複雑な会計処理

  • 減価償却や按分処理など、法人会計上の処理が煩雑になる。
  • 税務リスクを避けるため、専門家の関与が不可欠。

メリット・デメリットの比較表

項目法人購入個人購入
税率法人税23.2%前後所得税最大45%+住民税10%
経費広く認められる(社宅・保険・修繕費)限定的
相続・承継株式承継でスムーズ相続税の直接課税
売却時法人税で約30%課税長期保有で20%課税
維持コスト法人維持費用ありほぼ不要
融資条件金利高め、審査厳しい住宅ローン優遇あり

なぜ法人での不動産購入が有利になるのか

1. 税制の仕組みによる優遇

法人税率は一定であり、利益が大きくなるほど累進課税の影響を受ける個人より有利になります。
特に課税所得が1,000万円を超えると、個人の所得税率は33%、40%、最大45%まで上昇するのに対し、法人は中小企業であれば約23.2%前後に抑えられます。
👉 高収益を見込む場合ほど、法人での所有が有利になる背景です。


2. 経費算入の範囲の広さ

法人は「事業活動に関連する支出」であれば幅広く経費計上できます。
例えば、社宅を役員や社員に提供する場合、法人負担分は経費になります。個人で購入すると生活費扱いとなり、経費にできません。
👉 この違いは「法人は事業体であり、生活と事業が明確に分離されている」という法制度上の考え方に基づきます。


3. 相続税・事業承継の仕組み

個人所有の不動産は、そのまま相続財産として評価され相続税が課税されます。
一方、法人所有であれば「法人株式」を承継する形になるため、不動産を直接評価されるよりもコントロールしやすい場合があります。
👉 国としても事業承継を円滑に進めるために法人スキームを利用する余地を残しています。


なぜ法人購入が不利になるのか

1. 不動産売却時の法人課税

法人で不動産を売却すると、その利益は「事業所得」として扱われます。法人税率約30%前後が課されるため、長期譲渡で20%程度に抑えられる個人より不利です。
👉 「出口戦略」を考えずに法人で購入すると、売却時に予想以上の税負担を背負うことになります。


2. 融資制度の違い

法人向け融資は「事業融資」として扱われ、住宅ローンのような優遇措置はありません。
また、金融機関は法人の信用だけではなく、代表者の個人保証を求めるケースが多く、個人で購入するより資金調達が厳しい背景があります。


3. 法人維持コスト

法人は毎年の決算や税務申告が必須であり、最低でも税理士報酬や登記費用が発生します。
個人なら確定申告だけで済むケースも多いため、小規模投資では法人を維持するコストがかえって節税効果を打ち消してしまうのです。


制度的背景まとめ

  • 法人購入が有利:税率の一定性・経費範囲の広さ・事業承継制度
  • 法人購入が不利:売却時課税の高さ・融資条件の厳しさ・維持コスト

👉 制度の背景を理解すれば、「どの規模・目的の投資なら法人が有利か」を判断しやすくなります。

法人で不動産を購入する際の実践ステップ

1. 投資目的を明確にする

  • 節税のためか、事業用資産としてか、相続対策としてか
  • 目的によって適した法人スキームや物件規模が変わる

2. 資金計画を立てる

  • 法人として融資を受ける場合、事業計画書や収支シミュレーションが必須
  • 金利は個人より高めになる傾向があるため、返済計画を堅実に設計する

3. 法人形態を選択する

  • 株式会社、合同会社、資産管理会社など、目的に応じた法人形態を選択
  • 節税・承継・融資の観点から、税理士と相談して設立スキームを決定する

4. 税務・会計体制を整える

  • 減価償却や修繕費の処理など、法人不動産は会計処理が複雑
  • 毎年の決算・申告を見据え、顧問税理士をつけておくのが安全

5. 出口戦略を設計する

  • 将来の売却時に法人課税が高くなる可能性を考慮
  • 「長期保有して賃貸収益を得る」か「一定期間後に売却して現金化する」かを事前に決める

法人購入の注意点

  1. 短期的な節税効果だけで判断しない
     法人維持コストや売却時の課税まで含めてシミュレーションすることが重要。
  2. 資産管理会社化のリスクを理解する
     不動産のみを保有する法人は「資産管理会社」として見られ、金融機関の融資に不利になるケースがある。
  3. 家族への役員報酬や社宅利用は適正に
     節税メリットがある一方で、過大な報酬設定や不自然な社宅利用は税務調査で否認されるリスクがある。

法人で不動産を購入するチェックリスト

  • 投資目的(節税・事業用・相続対策)を明確にしたか
  • 法人の資金計画と返済計画を立てたか
  • 適切な法人形態を選んでいるか
  • 税理士・専門家と相談しているか
  • 出口戦略(長期保有か売却か)を決めているか
  • 法人維持コストを把握しているか
  • 税務調査で説明できる会計処理を整えているか

👉 このチェックリストを満たしていれば、法人購入のメリットを最大化し、リスクを最小限に抑えることができます。


まとめ:法人購入は戦略的に使い分ける

  • 高所得層や大規模投資を行う場合は、法人購入による節税・承継メリットが大きい
  • 小規模投資や短期売却を想定する場合は、個人購入の方が有利なこともある
  • 「法人と個人、どちらが有利か」ではなく、自社の目的と状況に応じて選ぶのが正解
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