不動産投資における税金の重要性
不動産投資は家賃収入や売却益を得られる一方で、税金の負担が収益に直結する投資です。
同じ物件を所有していても、「個人」で不動産所得として申告する場合と、「法人」を設立して法人名義で運営する場合では、税金の計算方法や節税効果が大きく異なります。
たとえば、個人は累進課税によって所得が増えるほど税率が上がりますが、法人は一定の法人税率で課税されるため、収益規模が大きいほど有利になることがあります。
個人と法人の選択で迷う投資家が多い理由
多くの投資家が「法人化すべきか、それとも個人のままでよいのか」で悩みます。特に以下の点が判断を難しくしています。
- 税率の違いが複雑
個人は所得税・住民税で最高55%課税されることもあるが、法人は原則23%前後。ただし均等割など固定費が発生する。 - 経費計上の範囲が異なる
法人の方が広く経費を認められる一方で、設立費用や維持費もかかる。 - 資産承継や相続への影響
個人所有だと相続税対策が必要になるが、法人所有なら株式として承継可能。 - 金融機関の評価の違い
法人の方が信用力を得やすいケースがある一方で、借入条件が厳しくなる場合もある。
誤った選択によるリスク
もし安易に選択してしまうと、次のようなリスクを抱える可能性があります。
- 個人で高額所得を得て、累進課税により過大な税負担となる
- 法人を設立したものの、収益規模が小さく維持費が重荷になる
- 相続対策を考えずに個人所有を続け、次世代に大きな税負担を残す
- 税務上の処理が複雑になり、申告ミスで追徴課税を受ける
つまり、個人か法人かの選択は、単なる形式の違いではなく、収益・節税・承継を左右する重要な経営判断なのです。
個人と法人の税金の基本的な違い
まず、個人と法人の課税の仕組みを整理してみましょう。
| 項目 | 個人(不動産所得) | 法人(法人税課税) |
|---|---|---|
| 税率 | 所得税+住民税の累進課税(5〜55%) | 法人税+地方法人税など(実効税率約23〜30%) |
| 控除 | 基礎控除、扶養控除、青色申告控除など | 損金算入範囲が広い、役員給与も経費化可能 |
| 赤字の扱い | 損益通算(給与・事業所得と相殺可)、3年繰越 | 10年繰越(繰戻還付あり) |
| 相続・承継 | 個人資産として相続税の対象 | 株式の承継で対応可能 |
| 信用力 | 個人の信用に依存 | 法人としての信用度が上がる可能性あり |
この比較からもわかる通り、小規模・副業的に行うなら個人、不動産収益が大きくなるなら法人という大きな方向性が見えてきます。
法人化が有利になるケース
- 不動産所得が年間1,000万円を超える場合
個人の累進課税では税率が高くなりやすく、法人税率の方が低く抑えられる可能性が高い。 - 経費を幅広く活用したい場合
法人なら役員給与、社宅、退職金などを損金にでき、節税効果が拡大。 - 資産承継を見据える場合
法人所有なら不動産を直接相続するのではなく、株式を相続できるため相続対策が容易。 - 融資を積極的に受けたい場合
法人は財務諸表を基にした評価を受けやすく、拡大戦略に有利。
個人のままが有利なケース
- 収益規模が小さい場合
家賃収入が数百万円程度であれば、法人設立・維持費用の方が負担になる。 - 節税よりも簡便さを優先したい場合
法人は申告・会計処理が複雑になり、専門家のサポート費用も必要。 - 相続よりも当面の収益確保を重視する場合
小規模なら個人所有のままでも十分に対応可能。
個人か法人かは「規模」と「目的」で判断する
結論として、不動産投資での税金対策は、投資規模・所得水準・相続方針によって最適解が変わります。
- 収益が小さいうちは「個人」でシンプルに申告
- 収益が増えたら「法人化」で税率コントロールと経費拡大
- 将来の承継まで視野に入れるなら早期法人化も選択肢
つまり、個人と法人のどちらが得かは「現時点の規模」だけでなく「将来の投資戦略」にも大きく左右されます。
個人と法人の税金をシミュレーションで比較
ここでは、収益規模ごとに「個人」と「法人」の税負担を比較してみましょう。
前提として、法人の実効税率は約30%、個人は所得税・住民税を合わせた累進課税で計算します。
ケース1:年間収益 300万円の場合
- 個人
経費控除後の課税所得:300万円
所得税・住民税合計:約15% → 約45万円 - 法人
法人税等:約30% → 約90万円
さらに法人設立・維持費(登記費用、顧問料など)で20〜50万円負担
👉 この規模では個人の方が有利。法人化すると税負担が増える可能性大。
ケース2:年間収益 800万円の場合
- 個人
課税所得:800万円
税率:約30% → 約240万円 - 法人
法人税等:約30% → 約240万円
ただし役員給与で所得を分散すれば、実効税率を下げられる
→ 例えば役員給与を500万円支給、法人所得300万円とすると
法人税:約90万円+給与分の所得税:約60万円 → 合計150万円
👉 法人化により年間90万円の節税効果が出る可能性あり。
ケース3:年間収益 2,000万円の場合
- 個人
課税所得:2,000万円
税率:最高45%+住民税10% → 約1,100万円課税 - 法人
法人税等:約30% → 約600万円
役員給与や退職金を組み合わせればさらに圧縮可能
👉 法人化で数百万円単位の節税効果が期待できる。
個人と法人の税負担比較表(目安)
| 年間収益 | 個人の税負担 | 法人の税負担 | 有利になる方式 |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 約45万円 | 約90万円+維持費 | 個人 |
| 800万円 | 約240万円 | 約150〜240万円 | 法人(節税設計次第) |
| 2,000万円 | 約1,100万円 | 約600万円 | 法人 |
シミュレーションから分かること
- 収益が小さいうちは個人が有利
- 収益が800万円を超える頃から法人化を検討すべき
- 2,000万円規模以上では法人化のメリットが圧倒的
また、法人化は税率だけでなく、
- 経費の幅が広がる
- 相続対策が取りやすい
- 融資に強くなる
といった副次的な効果も見逃せません。
個人から法人への移行ステップ
ステップ1:収益規模を見極める
- 年間収益が800万円を超えてきたら法人化を検討
- 2,000万円以上なら法人化のメリットが明確に大きい
ステップ2:法人設立の手続きを行う
- 定款の作成・認証
- 法務局への登記
- 税務署・都道府県税事務所への届出
法人設立費用は株式会社で約25万円、合同会社で約10万円が目安です。
ステップ3:会計・税務の体制を整える
- 法人は複式簿記が必須
- 税務申告も複雑になるため、税理士顧問をつけるのが一般的
- 会計ソフトやクラウドサービスを導入して効率化
ステップ4:役員報酬を設計する
- 役員報酬は毎月一定額で決め、損金算入できる
- 所得分散により、税率を抑えることが可能
- 将来的な退職金設計も節税につながる
ステップ5:相続・承継まで見据える
- 個人所有だと不動産をそのまま相続するため相続税が高額化
- 法人所有なら株式の相続で済むため、承継がスムーズ
法人化を検討する際の注意点
- 収益が小さいと逆効果
維持費や顧問料が税負担以上に重くなる場合がある。 - 金融機関との関係
個人の与信が強い場合、法人設立直後は融資条件が悪化する可能性がある。 - 税制改正の影響
法人税や所得税の制度は毎年見直しがあり、長期的な視点が必要。
まとめ:個人と法人、どちらが得か
- 小規模・副業レベルなら個人で十分
- 中規模以上(800万円超)なら法人化が選択肢
- 大規模(2,000万円超)なら法人化が有利
- 法人化は「税率」だけでなく「経費・相続・信用力」まで含めた総合判断が必要
不動産投資を事業として成長させたいなら、法人化を前提にした長期的な戦略を立てることが成功のカギとなります。

